婚姻不成立の際は返してもらえる可能性がある

 しかし、婚姻不成立の場合には、贈与契約が成立しなかったものとして、不当利得として返還を求める余地があることも裁判例上は認めています。
 このことを前提とすると婚姻が成立すると原則として、結納の目的を達しているため、返還を求めることができないことになります。
 しかし、法律上の婚姻は成立したが、夫婦としての実態がなかったような場合も、結納金が一切返還されないのも酷であり、一定の場合に婚姻成立後にも結納金返還を認めた裁判例もあります。
 以下、裁判例(福岡地方裁判所柳川支部判決昭和37年8月8日)の要旨を紹介します。

「思うに結納は、特殊の場合は別として、普通の場合は他日に婚姻の成立すべきことを予想し、その縁結びの印としてなされる一種の贈与であるから、一旦婚姻が成立した以上原則としてこれの返還を求めることはできないけれども、たとえ形式上婚姻が成立しても、夫婦生活の期間が短かく、事実上の夫婦協同体が成立していない場合は、婚姻予約不履行に準じて結納の返還義務を認めるのを相当するところ、本件においては被告は、最後に原告の居を去るまでの間も(婚姻生活約3ヵ月半の間に)通算20日位原告と同棲したに過ぎず、他は殆ど実家にいたのであって、そのうちの病気治療期間も特に原告と協議して実家で療養することにしたわけではないから、原告被告間には未だ夫婦協同体は成立していなかったものというべきであり、被告は原告に対して本件結納金10万円を返還すべき義務がある」

と判決しました。

 上記裁判例は、形式上婚姻が成立しても、夫婦生活の期間が短かく、事実上の夫婦協同体が成立していない場合は、婚姻予約不履行に準じて結納の返還義務を認めるのを相当と判示し、婚姻成立後に結納金の返還請求できる余地を認めています。

通常は婚姻後の結納金の返還は困難

 なお、最高裁は夫婦としての実態が8か月続いていた後に離婚した場合の結納金の返還請求権を否定しました。
 上記の裁判例等に照らすと、通常、婚姻後の結納金の返還請求は困難です。また、認められたとしても金額として全額ということはほとんどないと思われます。

弁護士 坪井 智之