こんにちは。長谷川です。
 いよいよ今年もあと僅かになりましたね。
 来週の今頃は、仕事納めだなんて、本当に、1年って早いものです。(ああ、また年をとってしまう。。。)

 さて、前回に引き続き、離婚後も巻き起こる子どもの取り合いについて、今回は、親権者がとりうる手段、人身保護請求手続きを紹介致します。
 (前回の記事はこちら:離婚後の子どもの取り合い

 人身保護請求とは、元々は不法に身柄を拘束されている人の解放のための手続きでした。イメージとしては、「反政府デモをやったら官憲に不当に身柄を勾留された人を解放する」みたいな?、そんな手続きでした(いつの時代の話しだ?)。

 当然、今の時代、なかなかこんな本来的な利用はありません。ただ、子供の取り合いへの転用(応用?)はしばしば見られます。

 人身保護請求は、手続きが特殊で、地裁の次は、すぐに最高裁への上訴という形になる為(人身保護法21条)、最高裁判例も数多くあり、見通しが立てやすいというメリットがあります。

 例えば、親権者対非親権者の争いでは、原則として非親権者が子どもを返さない状態は、「顕著な違法性」があると認められ、請求者(=この場合だと子どもを奪われた親権者)に対して、被拘束者(=子ども)を引き渡すよう命令する判決が下されます。他方、拘束者(=非親権者)が子どもを養育している状況であっても例外的に「顕著な違法性」が認められず子どもを引き渡さなくて良くなる可能性がある場合(例えば、子どもの年齢が高く、子どもが自身の意思で非親権者の下に留まっているような場合や、非親権者が家庭裁判所で親権変更の審判を申し立てているような場合など)についても、最高裁判例があります。

 最高裁判例が多いという点は、私達実務家からすると、見通しが付けやすいため、非常に使い易い手続きということになります。あくまでも私見ですが、私としては、子の引渡審判よりも、人身保護請求事件の方が、結論の見通しがつけ易いと感じています。誤解を恐れずに言えば、子の引渡審判については、家裁の調査官調査が入ることもあり、なかなか形式的判断がしにくいという面があります。しかし人身保護請求事件については、調査官調査といったものはなく、最高裁判例を踏まえた形式的判断という色合いが強い気がします。 

 もっとも、人身保護請求事件においても、子どもの為の国選代理人が選任され、子どもの現状について一定程度確認はします(人身保護法14条)。ただ、国選代理人は弁護士が就任することもあり(同条2項)、調査官調査ほど緻密な調査はなされていないように感じます(あくまでも私見です)。

 また手続き的にも、人身保護請求事件は、非常に早い手続きで、経験も踏まえて申し上げると、手続き開始から判決まで、ほぼ1ヶ月で全部済んでしまいます。これ、申し立てる側からすると非常に素早く終わるというメリットがあります。

 しかも、人身保護請求事件の場合、拘束者(=この場合は子どもを養育している非親権者)が被拘束者(=子ども)を裁判所の命令に反して裁判所に連れてこなかった場合、裁判所は、非親権者を勾引したり、裁判所の命令に従うまで勾留することができるのです(人身保護法18条)。

 子の引渡審判においては強制執行手続きが可能であるにしても、強制執行が不奏功で終わった場合の効果的な制裁手段がないことに比べると、非親権者に対する制裁があるという点で、人身保護請求は強力な手段であると言えます。ま、もっとも、私が調べた限りでは、判例上、実際に勾留した事案は1件しかありませんでしたので、裁判所も、非親権者に対して制裁を発動するのはなかなか躊躇するのかなという印象ですが。

 このように書くと、何だか、子の引渡審判よりも、人身保護請求を起こすよう勧めているかのように読めてしまうかもしれませんが、そういう趣旨ではありません。

 子の福祉を考えるなら、子の取り合いという事件の性質上は、家裁調査官の調査が入る家裁で取り扱うことが正しいはずです。

 ただ、子を奪われた親権者の立場からすると、時間の経過は、子が非親権者の下での生活に適応してしまうということを意味しますので、刻々と取り返しづらい状況になっているわけです。従って、一刻も早く子どもを取り返すという親権者の視点だけで考えるなら、スピード感のある人身保護請求の方がより使い易いのではないかと、私は考えています。

 次回は、ディフェンス側、すなわち、非親権者側でどういった手続きをとりうるのかという視点からお話しようと思います。

 あ、次回はもう新年だ。 I wish your merry Christmas and Happy New Year!!

弁護士 長谷川桃