事務所に法律相談に依頼者が訪れたとき、夫名義の財産を持ち出して来ていると言われる方がいます。今回は、このような行為に問題はないかを考えてみたいと思います。

 日本の民法は、762条1項で、夫婦別産制をとっています。夫婦別産制というのは、簡単に言うと、たとえ夫婦であっても自分の物は自分の物であり、夫の物が妻の物にはならないという原則を言います。

 ですから、この原則に従えば、妻が夫の名義となっている財産を、夫に無断で持ち出してしまえば、原則として、民事上は不法行為責任に問われ、刑事上は窃盗罪等に該当しうるということになります(ただし、刑事上は親族間の犯罪と言うことで、刑罰は免除されます。)。

 ただ、夫名義の財産とはいっても、本当に夫の財産であるものもあれば、共有財産であるのを便宜上夫名義にしているもの、共有名義になっているものなどがあると思います。なお、夫婦別産制の原則はありますが、夫の物か妻の物かわからない場合には、例外として、夫婦の共有財産とされます(民法762条2項)。

 では、共有財産を持ち出すことは、どうでしょうか。

 この点については裁判例があります。横浜地方裁判所昭和52年3月24日判決は、家事育児を行っていたため、ほとんど収入も預金もなかった妻が、夫の預金300万円のうち、150万円持ち出した事案ですが、妻は、夫の預金について、準共有者として2分の1の持分を有するため、150万円の持ち出し行為は不法行為にはならないとしています。

 又、東京地方裁判所平成4年8月26日判決は、妻が、夫の国債、ゴルフ会員権、現金などを、夫に内緒で勝手に持ち出した事案ですが、夫が婚姻中に妻の協力のもとに働いて得た収入で取得した財産は実質的には夫婦の共有財産であるとし、別居の際に妻が夫婦共有財産を持ち出したとしても、その財産が将来の財産分与として考えられる対象、範囲を著しく逸脱するとか、夫を困惑させる等不当な目的をもって持ち出したとかいうような特別の事情がない限り、違法性はなく、不法行為とはならず、最終的な帰属は財産分与の際に決めるべきであるとしました。

 これらの裁判例の考え方からすれば、夫婦共有財産であれば、財産分与の対象となる2分の1程度の持ち出しは不法行為になりませんが、夫の個人的な財産については持ち出すと問題になってしまうということだと思われます。

 夫の個人的な財産にあたるか、夫婦の共有財産にあたるか、は微妙な判断を要することもありますので、弁護士などに相談されるのがよろしいかと思います。

 夫婦別産制が原則であるというと夫の財産となり、共有財産となる範囲は狭くなるように感じられてしまうかもしれませんが、実際に検討してみると、夫婦の共有財産となる範囲は意外と広いですから、よく相談してみてください。