1 はじめに

 こんにちは、弁護士の平久です。

 今回は離婚届を偽造されたらどうなるかというお話です。実際に、夫に勝手に離婚届を提出されていて、妻が知らないうちに離婚したことになっていたという事例はままあります。

 このような場合、夫は既に別の女性と結婚していることが判明することが多いようです。おそらく、妻が離婚に応じてくれず、一方、新しく付き合っている女性に強く離婚を迫られていたといった背景事情があったのでしょうね。

2 法律関係

 では、上記のような例で法律関係はどうなるのでしょうか。 まず、協議離婚には、離婚の意思(実質的要件)と離婚の届出(形式的要件)が必要とされています(後者について、民法764条が準用する民法739条)。

 このようなケースでは、離婚の届出は既になされていますが、一方当事者の離婚の意思が欠けていますので、前婚について離婚は無効となります。一方、後婚はどうなるのでしょうか。離婚が無効となれば、前婚は存在していることになりますから、後婚については、重婚ということになります。重婚は婚姻の取消し事由です(民法744条、732条)。よって、後婚については、取消すことが可能です。

3 手続関係

 法律的に離婚が無効になり、後婚が取消すことができることが分かったとして、具体的にどのような手続をとれば良いのでしょうか。

 離婚の無効確認や婚姻の取消しについては、人事訴訟として家庭裁判所で取り扱うことになっています(人事訴訟法第2条1号)。また、家庭裁判所に調停を申し立て、合意に相当する審判を得ることによっても可能です(家事審判法第23条)。

4 追認した場合

 離婚届の偽造によって離婚が無効となる場合でも、追認した場合には、離婚が有効となります。

 では、離婚を追認したというのはどのような場合でしょうか。

 長期間別居状態が続き、妻が調停において協議離婚を認めることを前提として、夫から離婚にもとづく慰謝料として3万円の支払を受ける旨の合意をしたという事案で、妻が家事調停の際に、右協議離婚を追認したと判断した最高

 裁判例があります(最高裁判決昭和42年12月8日判例時報511号45頁)。

 また、夫が離婚届を勝手に提出し、妻もそれを知りながら、何ら離婚の戸籍を訂正するといった行動に出ず、夫は別の女性と同居し、事実上離婚しているのと同様の状態が続いていた事案で、妻が離婚について追認したと認めた裁判例もあります(東京地裁判決昭和56年1月30日判例タイムズ443号132頁)。

弁護士 平久真