債権仮差押えの手続のご紹介

 裁判で勝訴しても、判決が出る前に債務者が資産を全部消費してしまった場合には、「無い袖は振れない」ということで、結局、強制執行の当てもなく、債権を回収できないということになってしまいます。  そこで、民事保全法は、仮差押えという手続を定め(民事保全法20条1項)、債務者が特定の財産を処分したり隠したりできないようにする手続を用意しています。今回は、仮差押えの中でも、預金債権の仮差押手続について、ご紹介します。

1 債権仮差押命令の申立の手順

 始めに、仮差押え命令を求める申立書を作成します。申立書は裁判所でも取得できますし、裁判所のHPに掲載されているものもあります。
 申立書には、①申立書の趣旨(〇〇を仮に差し押さえたい、という主張のことです。)を記載します。また、②保全すべき権利(本件仮定事案でいうと、貸金返還請求権500万円です)と、③保全の必要性(強制執行をすることができなくなるおそれがあるか、強制執行をするのに著しい困難を生じる恐れがある具体的事情のことです)も記載しなければなりません。また、①~③の主張を裏付ける資料として、Bさんとの間で交わした消費貸借契約書や手紙、報告書等の資料を、「疎明資料」として添付しなければなりません。

2 審尋

 仮差押えの場合は、債務者による財産の隠匿・消費を免れるため、債務者から特に事情を聞かないまま、債権者から直接話を聞いたり、債権者が提出した書面を参考にする等して、仮差押え命令を出すべきかどうかを審理します(民事保全法3条)。

3 担保

 銀行預金債権が仮に差押えされてしまうと、債務者は当該預金を運用できなくなり、損害を被ります。そこで、本案訴訟(本件仮定事案ですと、AさんのBさんに対する500万円の貸金返還請求訴訟のことです)で、債権者の主張が認められず、仮差押えが不当であった場合に、債務者が損害を補填できるようにしておくべく、債権者は担保を立てなければなりません。
 担保の金額は、仮差押えの目的物の価額を基準に定めます。仮差押えの目的物が預金債権で、請求債権が貸金債権の場合には、一般的に、目的物である預金債権の10~30%の担保を入れなければなりません(預貯金額不明の場合は、請求額を基準とすることもあるようです)。なお、Aさんは、本訴の貸金返還請求訴訟で勝訴すれば、後述【勝訴判決後~担保の取戻し】の手順を踏むことで、この担保を返してもらえます。

4 債権仮差押えの執行

 銀行預金に対する仮差押えの執行は、裁判所が銀行に対して、債務者への弁済を禁止する命令を発令する方法によって行います(民事保全法50条1項、4項)。これにより、以後、債務者は当該口座に入れてある預金を引き出すことができなくなります。

勝訴判決後~担保の取戻し

 債権者は、本案訴訟で勝訴判決を得て、その判決が確定した後は、裁判所に担保の取消を申し立てて担保取消決定を受け、供託原因消滅証明書を発行してもらい、それを供託所に提出して、担保金を返して貰います。

勝訴判決後~強制執行

 債権者は、裁判所から、確定した勝訴判決に執行文を付与してもらった後、債権差押命令の申立をします。裁判所は、銀行の陳述を踏まえたうえで差し押え命令を出します。差押命令が裁判所から銀行に送達された時点で、債務者は差押えされた口座の預金を引き出せなくなります(民事執行法145条1項、4項)。債権者は、債務者に差押え命令の書面が送達されてから一週間経過した以降は、差し押えた預金債権から、本案訴訟で認められた金額の支払いを受けることができます(民事執行法155条1項)。

最後に~債権仮差押えの注意点

Aさんが敗訴した場合

 本件仮定事案で、仮に、Aさんが敗訴した場合について考えてみましょう。この場合、AさんがBさんの財産を不当に差し押えていたということになりますので、Bさんは、Aさんに対して損害賠償請求ができます。
    Aさんが立てていた担保は、このような場合にBさんの損害賠償請求権を確保するためですので、この場合にはAさんは担保を取り戻すことが困難となります。Bさんから同意書をもらうか、裁判所に、「Bさんに権利行使するように催告してみてください」と申し出て(これを、「権利行使催告」と言います)、それでもBさんが権利行使をしなければBさんの同意があったとみなされますので裁判所に担保取消決定をしてもらえますが、Bさんが損害賠償請求権を行使して担保の還付を求めてくれば、Aさんが担保を取り戻すことは非常に困難になります。

本件口座に預金債権がなかった場合

 また、そもそも、Aさんが担保を立てて仮差押えを申し立てたものの、既にC銀行D支店にはBさんの口座がなく、仮差押えが出来ずに申立てが空振りに終わった場合にも、担保の取戻しは困難になります。この場合にも、Bさんは、裁判所から銀行に連絡がいったことで信用不安等の損害を被ったと言えるので、Aさんが担保を取り戻すためには、Bさんから同意書をもらうか、上記の権利行使催告をしたうえで裁判所に担保取消決定をもらわなければならないのです。
※これに対し、不動産の仮差押えをしようとしたら登記登録ができなかった、というような場合には、保全命令により債務者に損害が生じないことが明らかなので、比較的容易に担保を取り戻すことができます。

 債権の仮差押えは、強制執行の実効性を確保する上で有効な手段ですが、上記のようなリスクもございます。是非、弁護士に相談されたうえで慎重にご検討頂き、利用されるかどうかをご選択頂ければと思います。