2 「労働者」かどうかが争いになる理由

 これに対し、芸能人には、会社に行って働く、というような決まった型はありません。自由に表現するということが芸能活動の特徴でもありますから、型にはまりきることは、本来的に芸能活動にそぐわないのでしょう。そのため、ときどき、「芸能人は労働者なのか?ということが争われる紛争が生じます。

 どうしてそのような点が争われるかというと、「労働者」であれば、例えば「労働基準法」によって、さまざまな面から保護を受けることがでるからです。他方、芸能人をかかえておいて柔軟に使いたい所属事務所側の思惑もあります。そのような目的に合うように、たいてい、「専属マネジメント契約」などの名目で芸能人と事務所は契約を結んでおり、雇用契約のような定型的なものではありません。

3 「労働者」にあたる場合とは

 芸能人の「労働者」性が争われる案件で、どのような側面が判断の基準になるかというと、芸能活動に対する対価の定め方、活動を芸能人側で選択することができたか、芸能活動による著作物の権利や芸名に関する権利などがだれに帰属するのか、芸能事務所と芸能人の指揮監督関係はどの程度あるのか、といった点です(東京地方裁判所平成25年3月8日判決参照)。
 上記の裁判例は、芸能人が賃金の支払いを求めた事案で、事案の事実関係を詳細に見て、労働者であるかどうかが検討され、芸能人の「労働者」性が認められています。
 また、専属マネジメント契約が「労働契約」なのかという紛争の現れ方もあります(東京地方裁判所平成28年3月31日判決参照)。
 芸能人が「労働者」であると認められば、芸能人の地位や権利も保障されやすくなるのでよいのですが、芸能人を「労働者」ととらえるのはなんだか夢がない気がしますね…。