本件仮定事案

 宗教法人Xに入会し、信者となったAさんは、宗教法人Xと永代供養契約および納骨壇使用契約を結び、永代供養料および納骨壇申込金を支払っていました。しかし、宗教法人Xの代表者の言動に疑念を生じ、同法人に対し、永代供養契約の解除と納骨壇使用契約の解約を申し入れ、既に支払った永代供養料および納骨壇申込金を返還するように請求しました。

 ところが、宗教法人XはAさんに対し、永代供養契約の解除も納骨壇使用契約の解約も許さず、返金にも応じないと回答しました。
 Aさんは、永代供養契約の解除および納骨壇使用契約の解約をし、既に支払った永代供養料や納骨壇申込金を返してもらえるのでしょうか。

東京地方裁判所平成26年5月27日判決の判断

 本件仮定事案と類似の事案につき、東京地方裁判所は、平成26年5月27日に以下のように判断を下しました。(以下、同裁判例で問題となった永代供養契約を「本件永代供養契約」と称し、納骨壇使用契約を「本件納骨壇使用契約」と称します)。

本件永代供養契約について

・永代供養とは、一般に、故人の供養のために毎年の忌日や彼岸などに寺院で永久に行う読経をいうものであり本件永代供養契約の法的性格は、事実行為を委託する準委任であると解するのが相当である。

・したがって、別段の合意がない限り、民法656条,651条1項の規定により、各当事者は本件永代供養契約をいつでも解除することができるところ、本件において、これと異なる合意の成立に関する主張立証はないから,本件永代供養契約は、元信者の解除の意思表示により解除されたというべきである。

・本件永代供養契約における供養の開始時期については、被供養者の死亡によって初めて供養が開始されるものとされていることから、本件永代供養契約が被供養者の死亡前に解除された本件では、いまだに宗教法人の負担する債務の既履行部分はない。

このように、同裁判所は、本件永代供養契約が解除されたとして、宗教法人に対し、元信者が宗教法人に交付した永代供養料の全額の返還を命じました

本件納骨壇使用契約について

・納骨壇使用契約は、納骨堂内の隔壁及び扉によって区画された遺骨の収蔵場所である納骨壇につき、その場所に応じて価格設定のされている申込金を支払い、これに対して期限の定めのない半永久的な利用権を設定することを内容とする契約であり、①利用者には、納骨堂施設の維持管理のための経費として、納骨壇の使用開始後、年額1万円の「納骨堂護持奉納」が義務づけられる一方、②宗教法人には,利用者のために先祖の供養と来世の幸福を祈る集合形式の法要行事を年5回行うこと等が義務づけられるという本件納骨壇使用契約の内容から考えると、その法的性質は、建物賃貸借契約の性質を中心としつつ、準委任契約の性質を併せ有する混合契約であると解される。

・以上によれば、別段の合意がない限り、民法617条1項前段の適用又は類推適用及び借地借家法28条の反対解釈により、納骨壇の使用者は,いつでも本件納骨壇使用契約の解約の申入れをすることができ、解約申入れの日から3か月経過後(民法617条1項2号)に同契約は終了するというべきである。そして、本件において、納骨壇の使用関係についての利用規約等が定められている形跡はなく、上記民法の規定と異なる合意が成立している旨の主張立証はない。

・そうすると、本件納骨壇使用契約は、元信者による解約の意思表示の3か月後である平成25年5月19日の経過をもって終了したというべきである。

このように、同裁判所は、本件納骨壇資料契約が解約されたとして、宗教法人に対し、元信者が宗教法人に交付した納骨壇申込金について、宗教法人が履行した部分(納骨壇の割り当て等)があることに鑑み、納骨壇申込金の1割についてのみ減額したうえで、返還を命じました

コメント

 ご紹介した東京地方裁判所平成26年5月27日判決は、当事者の意思を法的に解釈した上で、民法の定める規定に従い、永代供養契約、納骨壇使用契約のいずれについても解除・解約を認め、宗教法人に対し、永代供養料や納骨壇申込金の返還を命じています。本件仮定事案でも、宗教法人XとAさんの契約内容に対する認識を法的に解釈すれば、準委任契約(納骨壇使用契約については建物賃貸借契約の性質も含む)であるとして、民法の規定に従い、契約の解除・解約が認められると考えられます。

 ただし、東京地方裁判所平成26年5月27日判決の事案は、宗教法人と元信者の方との間で、民法の定めと異なる特約が締結されていなかった事案です。
 仮に、本件仮定事案で、宗教法人XとAさんとの間で、解除・解約を制約するような特約や、永代供養料や納骨壇申込金返還の条件についての使用規則等が合意されていたとしたら、その合意が当事者間の公平をあまりに害する不合理なものであったり、錯誤や詐欺に基づくものであったといったような事情がない限り、原則として、当該特約に従った方法をとらざるをえない可能性が高いと思われます。

 永代供養契約や納骨壇使用契約といった契約は、長期間にわたる権利義務を発生させる重要な契約ですので、解約の可否・条件等も含めて契約内容をよくよくご確認ください。