1. はじめに

 こんにちは。
 平成25年6月4日、サッカー日本代表がワールドカップ出場を決めました。
 後半終了間際にオーストラリアに先制点を決められ万事休すというところに、本田圭佑選手が獲得したPKを豪快に決めた瞬間、みなさまも歓喜と興奮の渦に包まれていたことでしょう。
 その瞬間を私は自宅で迎えましたが、直接観戦した方、他の会場やスポーツバー等のパブリックビューイングで周囲と喜びを分かち合った方など様々な方がいると思います。

 さて、今回は、そのようなスポーツ中継のパブリックビューイングに関する法律問題について説明してきたいと思います。

2. パブリックビューイングに問題があるのか?

 パブリックビューイングの法律問題と言っても、パブリックビューイングなんてそこかしこでやっているのだから何が問題なのか、と思われる方もいるかもしれません。
 しかし、パブリックビューイングで上映している物は、その放映者等が著作権を持つ著作物であることから、実は、一定の法的規制に服するのです。

3. ワールドカップ映像の著作物性と著作権者

 今回のようにパブリックビューイングで上映するサッカー等は、「映画著作物」(著作権法10条1項7号)に該当すると考えられます。「映画著作物」とは、映画及び映画の効果に類似する視覚的または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物とされており、映画はもちろん、何らかの形で映像化されたスポーツ中継等も著作物に当たります。

 ワールドカップ映像の場合ですと、一次的な著作権はFIFAにあるものと考えられるため、FIFAが著作権者ということになります。
 そのため、FIFAに無断でワールドカップ映像を放映するということは、著作権者の許諾のない著作物の使用ということで、著作権侵害に当たる可能性があります。

4. パブリックビューイングが著作権侵害にあたるのか

 そうすると、日本中いたるところでやっているワールドカップのパブリックビューイングはFIFAの許可を得ないといけないということになるのでしょうか。

 この点に関して、著作権法38条3項前段は、営利を目的としない上演等について規定しており、営利を目的としないならば、放送又は有線放送される著作物を受信装置を用いて公に上映することを許しています。

 営利を目的としないとは、店の宣伝目的の場合や、参加費や場所代や飲食等の代金等をとったりしないこととされています。本条は、公民館や市民センター等の公共の場でテレビを上映している場合などを想定しています。

 また、著作権法38条後段は、通常の家庭用受信装置を用いる場合であれば、営利目的の有無にかかわらず、上映について著作権侵害とならない旨が規定されています。これによって想定されているのは、いわゆる町の定食屋さんが店でテレビをつけているといった状況です。

 「受信装置」と「通常の家庭用受信装置」の違いは明確ではありませんが、一般家庭用よりも相当程度大きいテレビ等でなければ通常の家庭用受信装置と言ってよさそうです。

 そのため、たとえば近所の人々が集まって、誰かの家でワールドカップを観戦するということは、厳密には著作物の上映として著作権侵害の対象となり得ますが、営利目的がないとされ、38条前段により著作権侵害には当たりませんし、町の定食屋さんで小さなテレビでワールドカップをたまたま流していても、38条後段により著作権侵害には当たらないということになります。

 もっとも、営利目的でない場合であっても、映像拡大装置を利用する場合には著作権侵害となり得ます(著作権法100条、100条の5、102条)。

 そのため、近所の人々が一つの部屋に集まる場合でも、プロジェクター等で拡大して上映する場合には、著作権侵害に該当する可能性があります。

5. ワールドカップのパブリックビューイングと著作権違反について

 以上からすれば、スポーツバー等でワールドカップを上映することは、FIFAの著作権を侵害することになります。

 そのため、スポーツバー等で上映するにあたっては、あくまでもFIFAの許可が必要になるのです。当職で調べたところによると、規模にもよりますが、一般的なスポーツバーであれば、6万円程度の使用料で許可を得られるようです。

 ちなみに、過去にも、南アフリカワールドカップにおいて、FIFAに無断で、山梨のホテルが300インチの大型モニターで約30人相手に有料でパブリックビューイングを開催したことで、FIFAから当該ホテルに対し中止要請がなされているようです。

 そのため、パブリックビューイングを開催しようとしている飲食店の方は注意が必要であるとともに、これからパブリックビューイングで観戦する際には、以上のような著作権の問題も絡んでいるのだと理解したうえでご覧になっても面白いかもしれません。

弁護士 中村 圭佑