はじめに

 個人的に最近、外国人を街中で見る機会が増えたり、サッカー日本代表にも外国人とのハーフである選手が招集されたりして、外国が身近になったように感じています。

 企業についても同様に外国は身近になってきています。現在、外国企業との取引が欠かせない企業は多数存在しますし、おそらくは今後もそういった企業は増え続けるのではないかと思います。

 このような企業が増加すれば、当然、国内企業と外国企業の間の紛争も増加することが予想され、今後、外国企業との間の取引における紛争を予防すること、または紛争を解決することは、企業にとっては重要なテーマになってきます。

 そこで、今回の記事では、外国企業との間の取引のうち、数の多い売買契約について、法律上どのように規律されているかを紹介させて頂きます。

外国企業との間の売買契約に関する規律

 外国企業との間の売買契約に関しては「国際物品売買契約に関する国際連合条約」という条約が存在します(ウィーン条約と呼ばれるものです)。この条約は、1980年に採択されたものですが、日本が加盟したのは2008年で、2009年から国内で発効しました。

本条約が適用される場合

 この条約は、日本企業と外国企業の売買契約すべてに適用されるものではありません。

 まず、①売買契約当事者双方の営業所所在地国が本条約を締約している場合に適用されます。

 日本はすでに本条約を締約しているので、相手方の営業所所在地国がどこであるかを調べて、その国が条約締約国であれば、本条約が適用されることになります。なお、現在の加盟国には、米国、カナダ、中国、韓国、ドイツ、イタリア、フランス、オーストラリア、ロシア等の国があります。

 次に、②相手方の営業所所在地国が本条約の締約国ではない場合は、国際私法の準則によれば締約国の法の適用が導かれる場合に適用されます。「国際私法の準則」とは、国際紛争等が生じた際にどの国の法が適用されるのかを決める法律で、日本でいえば「法の適用に関する通則法」がこれに該当します。この「国際私法の準則」によって、日本等の締約国の法の適用が導かれる場合には、本条約が適用されます。イギリス、インド、ブラジル等の国は本条約を締約していないので、これらの国と取引をするときは、注意が必要です。

 なお、日本の「国際私法の準則」である法の適用に関する通則法第7条は、原則として、契約に関しては当事者が選択した地の法を適用すると規定していますので、イギリス等の非締約国相手の取引であっても、契約書において、本契約に関する紛争を日本法により解決する旨の条項を含めておけば、本条約が適用されます。

契約内容の規律

 本条約は、主に買主及び売主の権利義務について規定しています。

 この権利義務の中で一番注目すべきは、売買の目的物が買主のもとに届いて、その目的物のうち一部に瑕疵があった場合や、数量が不足していた場合に、責任の所在が買主と売主のいずれにあるのかという点に関する規定です。おそらく、国際的な取引において1番紛争になりやすい点ではないかと思います。

 売主は、買主に対して、契約に定める数量、品質及び種類に適合した物品を引き渡す義務があります(本条約35条)。これを物品適合義務といいます。この義務に違反した場合、買主は売主に対して①代金減額請求、②損害賠償請求をすることができます。また、この義務違反が重大な契約違反と認められる場合には、③代替品引渡請求、④契約の解除をすることができます。

 しかし、売主がこの義務に違反したというには、ただ単に、目的物が買主のもとに届いた際、物品の不適合があったというだけでは足りず、物品の不適合が、買主に危険が移転したときに存在していたものである必要があります(本条約36条)。買主に危険が移転するタイミングは、契約の内容によります。現在の国際取引の実務上は、CIF、FOB等のインコタームズによって、目的物が船に積まれたときに危険が移転すると規定するものが多いです。

 以上の話をまとめると、買主は、売主に対し、物品の不適合が船に積まれたときに存在していれば(例えば、売主が目的物を梱包した際、すでに数量に不足があった場合など)損害賠償等を請求することができますが、物品の不適合が船に積まれた後に発生した場合(例えば、船舶の整備に不備があって船舶の倉庫が一部浸水し、目的物が水浸しになってしまった場合など)には、売主に対する責任追及はできません。後者の場合、買主は運送業者に対して責任を追及していくことになります。

条約が適用されるメリット

 条約が適用される最大のメリットは、取引がどのような規律に服するのかが明確になることです。この点が明確になれば、契約締結の時点で紛争を予防するための対策をとることができますし、万が一紛争が発生しても、どのような形での紛争解決が可能であるかが明確になり、紛争に対する対応が容易になります。

 他方、もし紛争が発生して、その紛争について全く知らない国の法律が適用されるとなると、まずその国の法律を勉強することから始める必要があります。弁護士といえども、他国の法律への対応は簡単ではなく、当該紛争に対する対応が難しいものになることは否定できません。

 もし外国企業と売買契約を締結する機会があれば、今回紹介した条約が適用されるのかを1度確認してみてはいかがでしょうか。後々の紛争防止に役立つのは勿論ですし、こういった問題を検討してみるのはなかなか面白いのではないかと個人的には思います。