こんにちは。今回は、性同一性障害を有する従業員が、会社からの配転命令や服装に関する服務命令等に従わなかったことを理由に、会社が行った懲戒解雇の効力について判断した裁判例をご紹介します。

事案

 従業員Ⅹ(身体的性別は男性)は,平成9年にYに雇用され,本社調査部に勤務していた。Ⅹは平成12年に性同一性障害の診断を受け、平成13年には家庭裁判所で女性名への改名を認められた。
 平成14年1月、ⅩはYから配置転換を内示された。その際、Ⅹは配転承諾の条件として、①女性の服装で勤務すること、②女性用トイレを使用すること、③女性更衣室を使用すること、を申し出た。Yがこれを認めず2月に配転を命じたところ、Ⅹは出社せず、辞令を破棄し返送した。
 また、Ⅹは3月4日に女性の服装、化粧等をして出勤したが、Yはこれを禁止する服務命令を発し、自宅待機を命じた。Ⅹは4月17日まで女性の容姿で出社したが、その都度、Yから服務命令違反を理由に自宅待機を命じられ、その後、就労しなかった。
 4月17日、YはⅩに対し、聴聞手続をした後、懲戒解雇をする旨を告知した。解雇事由は、配転命令拒否、服務命令に反し女装で出勤したこと等でした。

 本件では、YのⅩに対する懲戒解雇の有効性が争われました。

裁判所の判断

 東京地決平成14年6月20日労働判例830号13頁は、本件懲戒解雇は無効であると判断しました。
 解雇事由毎に判断を見てみます。

配転命令拒否について

 まず、本件配転命令は、Yにおける業務上の必要に基づき、合理的な人選を経て行われたものであるとして、相当性を認めました。
 次に、Ⅹが、本件配転命令を拒否した主たる理由は、自己の申出が受け入れられなかったことにあると認め、Ⅹが配転命令に応じたうえで、Yに本件申出を受け入れるように働きかけることも可能であったことなどから、Ⅹによる本件配転命令拒否には、正当な理由が認められないとしました。
 以上から、裁判所は、Ⅹの行為は懲戒解雇事由に該当すると判断しました。
 しかし、Ⅹが辞令を破棄したことを謝罪していることや、4月17日まで配転先において在席していたこと、Ⅹの性同一性障害に関する事情に照らすと、ⅩがYの対応について強い不満を持ち、本件配転命令を拒否するに至ったのもそれなりの理由があることなどを理由として、Ⅹの配転命令拒否は懲戒解雇に相当するほど重大かつ悪質な企業秩序違反であるということはできないとして、配転命令拒否による懲戒解雇には相当性がないと判断しました。

服務命令違反について

 本決定は、本件の服務命令について、Yが、Ⅹの行動による社内外への影響を憂慮し、当面の混乱を避けるために、債権者に対して女性の容姿をして就労しないように求めること自体は、一応、理由があるとしました。
 その一方で、性同一性障害を有するⅩが、Yに対し、女性の容姿をして就労することを認め、これに伴う配慮をしてほしいと求めることにも相応の理由があるとしました。
 そして、YにおいてⅩの業務内容、就労環境等について、本件申出につき、Ⅹ、Y双方の事情を踏まえた適切な配慮をした場合においても、なお、女性の容姿をしたⅩを就労させることが、Yにおける企業秩序又は業務遂行において、著しい支障を来すと認められないから、本件服務命令違反を理由とする懲戒解雇に相当性は認められないと判断しました。

おわりに

 本決定は、Yの懲戒解雇を権利の乱用として無効としました。しかし、女性の容姿をして就労しないよう求めた服務命令そのものは違法としませんでした。したがって、本決定の立場からすれば、本件服務命令違反を理由としてより軽微な懲戒処分を行った場合には有効と判断される可能性があるといえます。