(4)最後に

 商法594条1項の責任は、旅店主が盗賊と結託して客の荷物を盗む行為が横行していたローマ時代におけるローマ法以来のレセプツム責任(客の荷物の安全を図るため、物品受領の事実のみにより損害につき法律上当然に結果責任を負わせるという責任原理)に基づく規定であり、商法594条2項も、ローマ法が認めていた旅店主人の厳格な責任に由来します。商法594条に基づく場屋の主人の責任は、民事法規の中でも厳しい契約責任であるといえ、客としては有効に使えれば非常に効果的な規定であるといえます。

 ただ、厳しい責任であることとの均衡上、場屋の主人に悪意がある場合を除いては(商法596条3項)、短期の消滅時効が定められている(商法596項1項,2項)こと、貨幣や有価証券などの高価品については一定の免責特則があること(商法595条)に注意が必要です。

弁護士 藤田 大輔