前回は、デッドコピー規制の制度趣旨等についてお話したかと思いますが、今回は条文について細かく見ていきましょう。
 (前回の記事はこちら:デッドコピー規制①

 不正競争防止法においてデッドコピーを規制しているのは、同法2条1項3号になりますが、同号においてデッドコピーは下記のように書かれています。

他人の商品(最初に販売された日から起算して三年を経過したものを除く)の形態(当該他人の商品と同種の商品(同種の商品がない場合にあっては、当該他人の商品とその機能及び効用が同一又は類似の商品)が通常有する形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入する行為

 カッコの中にカッコがあったりして非常に読みづらい文章になってはいますが、落ち着いて読めばご理解いただけるかと思います。

 ではまず、同号の「他人」の意味から考えていきましょう。

 ここにいう「他人」とは、商品の形態を創作した者を指すのではなく、当該商品を開発・商品化した者を指すと考えられています。理由は簡単で、前回のブログにも書きましたが、不正競争防止法の趣旨が先行者の開発利益を模倣者から保護する点にあるためです。このあたりが文化発展を目的とする著作権法の違いであるといえますね。最近の下級審判例でこの「他人」性が問題となったのが、東京地方裁判所平成21年3月27日判決です。かいつまんで説明すると、当初は原告と被告が一緒に商品(人形)を考えて一緒に商売をする気でいたのですが、両者の意見に齟齬ができてしまったのでそれぞれ単独で商品を製造販売することになったという事案のようです。東京地裁は、商品形態について「原告代表者が単独で発案したとまで認めることはできず、原告代表者及び被告の従業員Aが共同で発案した可能性を否定できない」として「他人」性を否定しました。

 次に、「商品」ですが、同種の商品でなければならないとされています。それはそうでしょうね。全く別のジャンルの商品において形態の良く似たものを作られたとしても、競争を害するとは思えません。もっとも、近接したジャンルの商品(ハンカチとスカーフなど)であれば、保護の対象とすべきであるとする見解があります。

 また、商品の構成要素(部品など)が独立して保護の対象になることはなく、せいぜい商品全体の形態の部分的特徴を形成するにすぎないと考えられています。一部要素が似ているだけではデッドコピーとはいえません。また、そもそも、あるジャンルの商品を製造する際にどうしても不可欠な要素というものはあるわけで、その要素についてまで「うちの商品と似ている!販売を差し止めよ!!」などと言えるとすると、およそ他の業者はこのジャンルの商品を製造・販売することができなくなってしまいます。まあ、この点は、条文のカッコ内の「通常有する形態」で考えるのが妥当かもしれませんね。

 なお、条文を見ていただければお分かりのように、「形態」とありますので、同号の保護対象は有形物に限定されます。無形物はダメです。ここで悩ましいのが、有形物なのか無形物なのかはっきりしないジャンルの商品がこの世には存在するという点です。先の判例にあるような人形やキーホルダー、文具などはっきりとした形のあるものは良いのです。また、コンピュータプログラムやデータベースなどは明らかに無形物なので保護の範囲外だということがお分かりかと思います(プログラムやデータベースは別途著作権法で保護される可能性があります)。じゃあ、デジタルフォント化された書体(タイプフェイス)はどうなのでしょうか? 例えば、私は他の弁護士と差をつけるべく(笑)わざとこのブログを明朝体でもゴシック体でもない、メイリオで書いています。このメイリオはマイクロソフト社がWindows Vista日本語版の標準フォントとして開発した日本語フォントであるとのことですが、このメイリオについてマイクロソフトは保護されないのでしょうか? 有形物といえば有形物であるし、デジタルフォント化されているという点では無形物のようにも思えます。同項1号で商品性を肯定している下級審判例もありますので、3号でも保護される可能性はあるとみて良いでしょう。

 余談になりますが、書体については古くは著作権法で争われてきました。しかし、最高裁平成12年9月7日判決(書体の名前をとって「ゴナU事件」と呼ばれます)において、

「印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには、それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり、かつ、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である」

とし、書体についての著作物性のハードルをものすごく高いところに設定してしまったので、今では著作権法で争われることもあまりなくなってしまったのではないかと思います。
 なぜ、書体に関して著作物性のハードルを上げる必要があるのかというと、

「印刷用書体について右の独創性を緩和し、又は実用的機能の観点から見た美しさがあれば足りるとすると、この印刷用書体を用いた小説、論文等の印刷物を出版するためには印刷用書体の著作者の氏名の表示及び著作権者の許諾が必要となり、これを複製する際にも著作権者の許諾が必要となり、既存の印刷用書体に依拠して類似の印刷用書体を制作し又はこれを改良することができなくなるなどのおそれがあり(著作権法一九条ないし二一条、二七条)、著作物の公正な利用に留意しつつ、著作者の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与しようとする著作権法の目的に反することになる。また、印刷用書体は、文字の有する情報伝達機能を発揮する必要があるために、必然的にその形態には一定の制約を受けるものであるところ、これが一般的に著作物として保護されるものとすると、著作権の成立に審査及び登録を要せず、著作権の対外的な表示も要求しない我が国の著作権制度の下においては、わずかな差異を有する無数の印刷用書体について著作権が成立することとなり、権利関係が複雑となり、混乱を招くことが予想される」

ということなんだそうです。たしかに、書体は著作権法での保護に少しなじまないかな、と思いますね。

弁護士 太田香清

次回:デッドコピー規制③