少し間が空いてしまいましたが、法人格否認についての検討を再開します。前回は法人格の形骸化について説明しましたので、今回は、法人格の濫用についての一般論を説明します。
 (前回の記事はこちら:法人格否認の法理2

 法人格の濫用が認められ、法人格が否認されることになるか否かの判断基準として、支配要件と目的要件の両方が満たされることが求められると以前に触れました。
 支配要件は、支配者である株主または支配会社が、被支配者である被支配会社に対し、支配力を及ぼすことができるか否かという客観的事実の判断です。
 対して目的要件は、支配者に違法、不当な目的が認められるかという主観面の問題となります。

 支配要件の認定については、支配者が被支配者を道具として支配できるか否かについて立証されることになり、この点は議決権割合等の客観的な数字などで証明される場合が多いと考えられます。
 一方、目的要件の認定については、支配者の主観を認定しなければならないため、その立証は困難、或いは微妙なものになることが多くなると考えられます。もっとも、支配者の主観それ自体を直接立証しなければならないとすることは非常に困難な立証を要求することになるため、裁判例においては実際には客観的な事実から主観面を推認するという手法がとられているものと考えられます。

 目的要件を判断する際に参考として用いられる客観的事実については、個別具体的な事案によって様々です。ただ、過去の事案を分析、整理することで、大体以下のような事実が注目されているのではないかと考えられています。

 ① 新会社の設立により、旧会社の債権者が害されたか。
 ② 新旧両会社で支配者や取引相手が同一か、事業用資産は流用されているか。
 ③ 新会社設立に際しての旧会社債権者との交渉の有無、内容
 ④ 債務の引継状況

 つまり、新会社を設立するにあたって、資産や取引先を流用しながら債務は旧会社に残すなど、上記の①から④までの事実に照らし違法・不当な目的の表れと認められるような事実があれば、法人格濫用とみなされるリスクが生じます。

 次回以降は、上記の①から④までの事実等について詳細に検討していこうと思います。