管理費を支払っていないマンションの居住者が、本来、管理組合が負担すべき共用部分の修繕費用などを替って負担した場合、その居住者は、管理組合に対して、債権を有していることになります。では、このような場合、管理組合が、居住者に対して、滞納管理費の支払い請求をしたとき、もし、その居住者が、管理組合に対する債権と滞納管理費支払請求権との相殺を主張したら、管理組合は滞納管理費を請求することができなくなってしまうのでしょうか?

 確かに、互いに有している債権は金銭債権ですから、相殺が認められてしまうようにも思えます。しかし、裁判例では、以下のように判断して、居住者の相殺の主張を認めませんでした。

「管理費等拠出義務の集団的、団体的な性質とその現実の履行の必要性に照らすと、マンションの区分所有者が管理組合に対して有する金銭債権を自働債権とし管理費等支払義務を受働債権として相殺し管理費等の現実の拠出を拒絶することは、自らが区分所有者として管理組合の構成員の地位にあることと相容れないというべきであり、このような相殺は、明示の合意又は法律の規定を待つまでもなく、その性質上許されないと解するのが相当である。」
(東京高裁平成9年10月15日判決)

 管理費は、通常、マンションの居住者全員が毎月一定額を管理組合に支払うことを予定しています。そして、それを前提として、マンションの管理が運営されているため、1人でも現実に管理費を支払わなければ、マンション管理が困難になり、マンションの居住者全員の不利益になってしまいます。上記裁判例は、1人の居住者の相殺の利益よりも、マンション居住者全員の利益を優先して、相殺の主張を認めないという判断したのだと思われます。

弁護士 竹若暢彦