弁護士 仁藤 仁士

 

皆様、こんにちは。

 

1 イントロ

   昨今、クレーマーへの対応は頭を悩ませる問題の一つと思います。今回は営業妨害行為に対する差止めが裁判所の決定により認められたケースをご紹介いたします。

 

2 事案の概要

 (1) 本件で差止めを求めたのは保険会社でした。

    当該保険会社との契約者(本件の差止めの対象者)の長女が事故に遭い、保険会社の担当者が父親である契約者(以下、「相手方」といいます。)に事故に関する調査協力を求めたところ、保険会社の対応は違法であり、調査のために事故現場のアパートに問い合わせをする権利はない等と言い出しました。そして、担当者の勤務時間外である午後8時以降に電話連絡するように求め、相手方から電話がかかってくる度に平均1,2時間、長いときには2時間半、担当者は電話対応に拘束されました。

    その後、保険会社は対応しかねて弁護士に依頼をし、相手方に弁護士を窓口とする旨を連絡しました。しかし、相手方はこれに応じず、保険会社に対して何度も電話をかけ、担当者を出せ、(担当者より)上の人間を出せなどと執拗に要求し続け、このようなやりとりが約3ヶ月間続きました。多いときには1日19回架電され、通話時間は最長90分にわたったそうです。

 (2) そこで保険会社は、(1)で挙げた相手方の妨害行為に対して差止めの仮処分を申立てました。

    東京地方裁判所では保険会社の申立は認められませんでした。今回は保険会社の営業の利益を害されたことから、相手方の妨害行為は不法行為(民法709条)であるとして差し止めを求めたのですが、不法行為の場合に認められる請求内容は損害賠償請求であって差止めは現行法では想定されていないとのことでした。

    これに対して、抗告審である東京高等裁判所は保険会社の申立てを認める判断を下しました(東京高裁平成20年7月1日決定)。

裁判所は、保険会社は法人であるところ、本件は法人の業務遂行権(法人の財産権と従業員の人格権の総体)に基づいて差止めを認めるという考え方を表しました。東京高裁の理由付けの概要を説明いたしますと、法人が行う業務は、法人が所有する資産(ビル等の建物や業務に用いる消耗品など)を使うことを前提に、法人を構成する多数の従業員が活動することによって成立します。しかし、外部から従業員に対して受忍限度(いわばガマンの限界です)を超える困惑・不快を与えられている場合には法人の財産権と従業員の人格権が侵害されていると見ることができるというものです。

裁判上、不法行為にあたる場合でも人格権侵害に基づいて差止めを認めることがあり、本件の東京高裁の理論構成は技術的にもみえますが、従業員の人格権を取り込んで何とか理論的に差止めが認められる構成を考え出したのではないかと思われます。

 

  3 この裁判例は、最高裁の判決ではありませんので、今後、類似の事例が起こった場合に、担当する裁判所が同様の考え方が採用するとは限りません。

    しかし、今までは労働争議等(デモ活動)で会社の営業が全く出来ないようなケースで差止めが認められるくらいでした。不正競争防止法等で差止め請求が定められていることはありますが、今回のように電話を何度もかけてくるという嫌がらせめいた行為は差止めの対象として想定されていません。

    今回のように個人のクレーマーに対しても、差し止めが認められる可能性が出てきたので、会社としては相手方の妨害行動をきちんと記録(録音、メモ等)に残しておくことが後の証拠収集につながるという大きな意味を有するようになったと思います。

 
    今回もお付き合いいただきありがとうございました。