今回も、前回に引き続き、賃貸借契約において賃料不払いを理由に賃貸人の方から解除が行われた場合の事例について、ご紹介したいと思います。

 

【東京地方裁判所平成9年11月28日判決】

 

 X(以下「原告」という)は、昭和59年5月27日、その所有する本件土地を非堅固建物所有目的でAに賃貸した。C(信販会社、抵当権者。以下「担保権者」といいます)は、昭和59年4月27日、Aに対し1500万円を貸し付けるとともに同貸金債権を担保するため、AとBが本件土地上に共有していた本件建物につき抵当権の設定を受けた。

 その際、担保権者は、原告に対し、「地代(賃料)不払等借地権の消滅もしくは変更をきたすようなおそれのある事実の生じた場合には担保権者に通知すること(4項)、本件賃貸借契約の解約若しくは内容の重大な変更を行おうとする場合は、あらかじめ担保権者の承認を受けること(5項)」などを要請し、原告はこれに応じて、その旨記載した本件承諾書に署名押印して担保権者に差し入れた(本件合意)。

 Aは平成5年11月分の賃料残額と同年12月分から平成8年1月分までの賃料合計31万円余の支払いを怠ったので、原告は、平成8年2月9日到達の書面をもってAに対し上記未払賃料を直ちに支払うよう催告するとともに、上記支払いがないときは本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたが、その際、Aの賃料滞納の事実や上記解除することなどを担保権者に知らせていなかった。Aは原告の催告に応じず、本件建物は競売にかけられた。Y(以下「被告」という)は、本件建物を競売により買い受けた。

 原告は被告に対し、本件建物の収去による本件土地の明け渡しを訴求した。被告は、原告が本件合意による通知義務を怠っていることなどを理由に解除の効力を争った。

 

 

上記の事案について、判決は、抵当権者への通知を必要とする特約を履行せずに賃貸人が行った本件賃貸借契約の解除を「有効」と判断しました(つまり、解除前に抵当権者へ通知せよという特約の効力は、本件に関しては、否定されたことになります)。

判決は、おおよそ以下のように判示しました。

原告による右通知義務懈怠は、担保権者に対する関係では義務不履行による責任を招来する余地があるというべきであるけれども、そうであるからといって、直ちに、通知義務を怠ってされた本件解除が効力を生じないこととなるわけではない。けだし、原告の右通知義務違反は、担保権者との間の本件合意に基づき同人に対して負担する契約上の義務に過ぎず、原告の担保権者に対する右(通知)の不履行が原告のAに対する解除権の発生・行使に当然に影響を及ぼすものとは解されないからである。

そして、前述のとおり、本件合意の趣旨は、借地権の消滅等による担保価値の減少の結果抵当権者である担保権者が損害を被るおそれがあることから、同人に対し、それを回避する機会を与えることを目的とするものと解されるところ、原告が本件合意による通知義務に違反した結果担保権者が借地権の消滅等を来すおそれのある事案の発生を知らないまま借地権が消滅したことにより損害を被ったような場合、担保権者から原告に対して右損害の賠償を求めうる余地があることは別論、前記のような本件合意の趣旨から直ちに、通知義務の懈怠により本件解除自体が効力を有しないものと解することはできないし、本件承諾書の文言及び弁論の全趣旨によっても、本件合意が、原告の担保権者に対する右通知義務の不履行により原告のAに対する解除権の行使が制限される趣旨を定めたものと認めることもできない」(なお、本件承諾書5項は、賃料不払いによる法定解除権の行使以外の事由による賃貸借契約の解約について担保権者の承認を要することを定めたものと解するのが相当であるとした)。

 

本件は、借地権を含めた土地の価値を担保権として把握していた担保権者が、自分の意に反して担保権が消滅しないようにとの目的から、土地の賃貸借契約を解除する場合には、担保権者である自分に通知する義務を特約で課したという事案ですが、判決の結論としては、この特約どおりの通知を行わなくても、賃貸人が行った解除は有効であるとされました。

確かに、賃料の支払いは賃貸借契約の根幹をなす賃借人の義務ですから(民法601条参照。なお、借地借家法には、賃料額に紛争が生じた際の解決方法についての規定もあります。借地借家法11条、同法32条など参照)、この点を重くみれば、単に賃貸人と担保権者が特約したからといって、賃貸借の法律的性質と考えられる賃料の支払いを怠ること(賃料不払い)を理由とする解除ができなくなる、というのは理屈に合わないことのようにも思われます。判決は、賃貸借契約における賃料の支払いの重要性から、賃料不払いを理由とする解除を制限する本件特約の効力を認めなかったものと思われます。

 

上記判例においても、「担保権者から原告に対して右損害の賠償を求めうる余地」については肯定されているので、担保権者としては、本件のように自分のコントロールできない範囲で解除権が行使されてしまった場合、賃貸人への金銭賠償請求によりその損害を填補すべきということになりましょう。

 

上記判例のように、一見オーナー様の解除権を制限する文言の入った書面や約定に応諾してしまっても、あとでその効力を争うことも考えられますので、よく知らずにこのような約定に合意してしまった、という場合には、ぜひ弁護士等専門家に相談されるようお勧めいたします。