前回(2/2)、平成7年4月14日判決を題材に、リース契約の倒産手続上の取扱いについてお話しました。前回のお話は、実は、リース契約において、リース業者がリース物件を使用させる義務と、ユーザーがリース料を支払う義務は対価関係になく、双方未履行双務契約に当たらない、リース物件がユーザーに引き渡された後は、リース業者はユーザーに対してリース料の支払債務と対価関係に立つ未履行債務を負担していない、という理解が前提になっています。
「双方未履行双務契約」とは、双務契約で、破産者・契約相手方の負っている債務のどちらもが破産開始時に履行されないまま残っている場合をいいます。
そして、このような双方未履行の双務契約は、破産法53条で、それ以外の契約と違う処理がされます。破産法53条1項は、「双方未履行の双務契約について、破産管財人は、契約を解除するか、あるいは破産財団として債務の履行を求めるかの選択権を有する」と定めています。すなわち、
①管財人が履行を選択した場合 → 相手方の債権は財団債権として保護され(破産法148条1項7号)、破産財団から優先的に弁済されます
※管財人が履行を選択するには、裁判所の許可が必要です(破産法78条2項9号)。
②管財人が解除を選択した場合 → 相手方の損害賠償債権は破産債権となり(破産法54条1項)、配当を受けることになります。
また、相手方の給付した現物が財団内に残っている場合には、その物自体の返還を求め、残っていない場合には、その価格について財団債権者となります(破産法54条2項)。
そして、契約の相手方には、破産管財人に対して、契約を解除するか履行するか確答するように求める催告権が与えられます(破産法53条2項)。
期間内に管財人から返事がないときは、清算型の破産手続では、契約関係においても清算が原則となるため、解除が擬制されます。これに対し、再建型の更生手続においては、履行選択が擬制されます(民事再生法49条2項、会社更生法61条2項)ので、随時弁済を受けられることになります。
そうすると、更生手続においては、双方未履行の双務契約であるほうが、債権者にとっては有利と言えそうですね。では、本来双務契約ではないものを、合意によって双務契約とできるでしょうか?
この点について、残念ながら判例(この判例の事案では、保証債務の履行を行った場合の求償債務と自動車の所有権移転登録手続債務が問題となりました。)は否定的に解しています。
すなわち、双務契約では、双方の当事者が対価的意義を有する債務を負担することが必要となりますが、この双方の対価的意義を有する債務とは、民法が規定する本来的意義の双方の債務に限られるとし、本来そのような関係に立たない双方の債務の間に、当事者の合意によって対価関係を創出しても、倒産手続上は特別の処理を受ける双務契約として扱わないとしています。
よって、①相互に牽連性を有し、②対価関係にあり、かつ③担保し合うような関係にある双方の債務だけが対象になり得ます。
現代社会には、民法に予定されていなかったような複雑な構造を持った様々な非典型契約が存在し、これらの契約においては、対価関係にある債務がどの債務であるか、よくわからない場合があります。事例によって判断が異なる可能性もありますし、判例の集積が待たれるところです。
参考判例:最高裁昭和56年12月22日判決(判時1032号59頁)
以 上