弁護士 仁藤 仁士

皆様、こんにちは。

 

1 イントロ

   以前にプライバシーに関連する内容としてパブリシティ権をご紹介させていただきました。今回は、職場でのプライバシーはどのように考えられているかについて、事件等をご紹介させていただきます。

 

2 思想・信条の調査

   法律(憲法)を勉強したことがある方が標記のキーワードを見ると、三菱樹脂事件を思い浮かべるのではないかと思います。三菱樹脂事件は、最高裁が出した判決が各法分野の影響を与えた大変有名な事件ですが、採用時の問題であるので今回とは少し場面が異なります。

   最高裁で職場におけるプライバシー侵害の可能性を示した判決としては、平成7年9月5日第三小法廷判決(判例タイムズ891号77頁・関西電力事件)があります。

   この事件では、労働組合に所属する従業員の方の中で共産党員に関係する人たちの調査・監視を会社が行っていたという事情があります。人によっては家の中に進入したり、第三者が知り得ないような情報を引き出してきたりするなどの執拗な調査・監視行為が認められたため、裁判所は第1審から損害賠償請求を認めていました。そして、特に家内に侵入して調査行為をされた人との関係で、最高裁は、プライバシーを侵害するものであって人格的利益を侵害する、という判断を示しています。

   他にも最高裁をはじめ各裁判所において、人格的利益への侵害の有無をポイントとした判断が次々と出ています。

 

3 その他の事例

 (1) 例えば、従業員間の社内メールを閲覧・監視した行為について、東京地裁平成13年12月3日判決は「監視の目的、手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益とを比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となる」としています。

ただ、この裁判例では、従業員は上司に対する愚痴をメールで当該上司に誤送信したことから監視が始まったという経緯や社内メールのある程度の監視体制があったという事情があり、このような社内メールの私的利用に対するプライバシー保護の範囲は電話に比べて相当程度低減される、と考えているようです。

このような事件周辺の事情は判断に影響してきます。例えば、会社への誹謗中傷及び同僚に転職先を斡旋するためのメールの私的使用については、特に後者での使用を理由に解雇処分をとるだけの社会的相当性があるとはいえない、という判断を下した裁判例(東京地方裁判所平成15年9月22日判決・グレイワールド事件)もあります。これは、会社の勤務歴が22年にわたり、真面目に勤務し会社に貢献してきたことも理由に挙げています。

 (2) 他にも、社内で対立する人物の異性関係を非難するような発言をしてまわったこと(福岡地裁平成4年4月16日判決・福岡セクシュアル・ハラスメント事件)、HIV感染の検査を行ったところ医師からの説明によらずに陽性であることを告知してしまったこと(東京地裁平成15年5月28日判決・HIV抗体検査事件)、などが損害賠償請求の認められた裁判例として挙げられます。

いずれにしても、社内の規定、管理・監視体制、社員の属性、その貢献度及び問題となる行為の性質など判断の材料となる事情がたくさんあって、それらを基に裁判所が秤にかける、といった判断スタイルとなっているようです。会社としては問題の渦中にある社員の情報にばかり目がいきがちですが、有利な事情を主張していくという意味では、社員の個人情報や行動に対する社内の管理体制を把握しなおすことも大切です。

 

今回もお付き合いいただきありがとうございました。