1 タイ資本と外国資本の基準

 前回のブログで、多くの外資系企業(日系企業も含まれます)が外国人が営むことを禁止されている事業を行っていると書きました。
 まず、誤解のないように言うと、上場企業でこれをやっている企業はまずないといってよいでしょう。日本の上場企業でタイに進出している企業で、禁止事業を違法に行っている会社はないようです。
 問題は、タイに進出している日系の中小企業です。タイ国内で、禁止されている事業を営んでいる日本人は枚挙にいとまがありません。

 では、なぜそのようなことがまかり通っているのでしょうか。
 その回答は、タイ資本と外国資本の基準にあります。外国人が出資すれば、ただちに外国資本になるわけではありません。タイ人が50%超、すなわち、過半数に相当する金額を出資していれば、それはタイ資本と判断されるのです。
 したがって、例えば、タイ人51%、日本人49%という資本構成になっていれば、タイ資本の会社になるわけです。そうすると、外国人に禁止されていた事業のほとんどを営むことができるようになってしまいます。

 もちろん、本当にタイ人が51%も出資していれば、その会社はタイ人に支配されるはずです。ですから、この51%は、タイ人が本当に出資しているのではなく、名義を貸しているのです。それが証拠に、このような会社では、ほとんどの場合、外国人が代表取締役です。タイ人が51%出資しているはずなのに、です。
 もし、タイ人51%、日本人49%出資なのに、なぜか代表取締役が日本人の場合は、タイ人から株主としての名義を借りた、実質、日系企業だと見て間違いありません。

2 名義貸しでビジネスチャンス?

 実は、この延長で、タイ人名義貸しをビジネスにしているコンサルタント会社もあります。
 そのスキームを書きましょう。

 あなたがタイに行って、友人のタイ人に名義を借りて表面上はタイ資本の会社、でも実質はあなたが全額出資し、あなたが100%支配している会社を設立します。
 友人のタイ人は全く出資していませんが、51%出資したことにして、その友人のタイ人の名義を借りるわけです。
 これで、あなたの会社は、日系企業ではなく、タイ資本の企業ということになります。
 したがって、経営コンサルタント事業をやろうが、日本人向けニュースペーパーを発行しようがやりたい放題です。

 そして、あなたと同じように、禁止事業をやりたい日本人がやってきました。この日本人顧客に対して、あなたは有効なソリューションを提案できます。この日本人顧客が、信頼できるタイ人の友人をすぐに見つけることは困難です。タイに来たばかりなので、名義を貸してくれるタイ人を簡単には見つけられません。
 そこで、あなたの会社が名義を貸すんです。そう…、あなたの会社は日系企業ではありません。立派なタイ資本の会社なのです!
 だから、あなたの会社が51%の株式を保有していることにすれば、その日本人顧客も、安心して禁止事業を営む会社を設立できてしまいます。もちろん、これはビジネスですから、名義貸し料をいただきます。
 ねっ、ちゃんと、ビジネスになっているでしょ!
 しかも、このビジネスモデルの強さは、その顧客が容易にあなたから離れない点です。だって、あなたの会社から株主名義を借りているんですから。いわば、弱みを握られているんです。

3 名義貸しは違法!

 しかし、安心しないでくださいね。私も弁護士として、言うべきことは言わなければなりません。
 実は、こんなことタイ政府もお見通しで、名義を貸したタイ人も、名義を借りた外国人も処罰されます。
 外国人事業法36条によると、

 「3年以下の懲役又は10万バーツ~100万バーツの罰金もしくはその併科」

となっています。罰金刑だけではなく、懲役刑もありますので恐いですよ。

 ということで、実は、このような方法で禁止事業を営むことは、タイでは犯罪なんです。

 ところが、です。それなのに、このような方法で禁止事業を営む外国人は減少するどころか、毎年増えています。不思議なことなのですが、実際にこれで捕まった日本人を私は知りません(実は、あまり大きな声では言えませんが、タイでビジネスをしている友人もこれでやっています。天に誓いますが、私がアドバイスしたんじゃありませんよ!)。
 法律上の建前はともかく、タイ政府がこれを本気で取り締まろうとしているようには思えません。
 おそらく、それはタイの経済事情が背景にあると思います。
 もしタイ政府が本気で取り締まり、違法に事業を営んでいる外国人を次々に検挙したらどうなるでしょう。タイに投資されているお金が逃げてしまいます。外国人がこれらの事業を営んでいるということは、裏を返せば、それだけタイに投資しているということです。これは、明らかにタイのGDPにプラスです。それだけではありません。これらの表向きタイ資本、でも実は外国資本である中小企業は、多くのタイ人を雇用しています。もしこれを違法だとして取り締まると、タイ人の失業問題が発生します。外国資本がタイ人の雇用創出にかなり貢献しているという現実があるんですね。
 このように、タイの経済は、かなりの部分、外国資本に依存しています。だから、取り締まりたくてもなかなか取り締まれないというのが本音ではないでしょうか。

 でも、だからと言って、捕まっても私は知りませんよ。これもビジネスリスクだと割り切って、ご自分でリスクを取ってくださいね(笑)。