1 給与の差押え:メリットとデメリット

 給与差押えの最大の効果は、債務者に任意の弁済を促す心理的効果です。
 何といっても、債務者の食いっぷちを押さえています。債務者も生活がかかっていますので、何とか債権者との関係を改善させて、差押えを取り下げてほしいと考えるからです。

 しかし、給与の差押えには、デメリットというか、限界もいろいろあります。

 第1に、給与が差し押さえられたことにより、債務者が勤労意欲をなくしたり、会社にいずらくなるなどして、退職してしまう場合があります。退職してしまえば、その後の給与は支払われないので、差押えによる債権回収はできません。転勤先を調査して、再度差押えを行わなければならなくなります。

 第2に、給与の差押えには、その金額に制限があります。すなわち、給与の差押えが許される範囲は、所得税等が控除された手取額が月44万円未満の場合は4分の1に限られ、月44万円以上の場合は、33万円を超える部分につい全額差押えが可能という制約です。というのは、給与は生活の糧なので、これを全額差し押さえてしまうと、債務者が生活できなくなってしまうからです。

 第3に、債務者と雇用主が親密な関係にある場合、給与の差押えにもかかわらず、雇用主がその従業員である債務者に全額給与を支払ってしまい、差押債権者への支払いを拒否してくることもあります。そうなると、今度は債権者と第三債務者が紛争になります。最悪の場合、取り立て訴訟にまで発展してしまいます。

 このような限界を考えると、給与の差押えが最も功を奏するのは、債務者が大企業や役所に勤務している場合です。
 なぜならば、このような場合、債務者は容易に転職などしませんし、また、雇用主が債務者をかばって支払いを拒否することもありえないからです。

2 差押債権目録

 以下に、差押債権目録のひな型を掲載しておきますので、参考にしてください(勤務先が民間企業の場合です)。

差押債権目録

金5,000,000万円

 但し、債務者が、第三債務者から支給される、本命令送達日以降支払期日の到来する下記債権について、頭書金額に満つるまで。

1 給料(基本給と諸手当。但し、通勤手当を除く)から、所得税、住民税、社会保険料を控除した残額の4分の1(但し、上記残額が月44万円を超えるときは、その残額から33万円を控除した金額)。

2 賞与から1と同じ税金等を控除した残額の4分の1(但し、上記残額が月44万円を超えるときは、その残額から33万円を控除した金額)。

なお、1及び2により弁済しないうちに債務者が退職したときは、退職金から所得税及び住民税を控除した残額の4分の1にして、1及び2と合計して頭書金額に満つるまで。