1 労働事件急増の背景

 2009年8月4日付の日経新聞(朝刊)の報道によると、2009年上半期に、中国の裁判所が受理した労働事件の件数は、全国で約17万件にも及んだそうです。これは、前年の上半期と比較すると、実に約30%増であるとか。

 特に増加が著しい地域は、輸出向け工場が集まっている地域だそうです。
 例えば、広東省では、2009年1月から3月の間に、前年比で約41%増、江蘇省では約50%増、浙江省ではもっと急激で約159%増ということです。

 その背景には、同紙によると、昨年秋以降の企業倒産や工場閉鎖に伴い、給料・残業代の未払い、失業保険の未給付などが増加したことにあるそうです。

 裁判だけではなく、物騒な事件も起きています。
 例えば、広東省では、2009年6月、労災被害に遭った従業員が、その賠償を拒否した社長ら2人を殺害するという事件も起きています。
 また、吉林省では、その翌月である7月に、3万人の従業員がデモを行う中で、社長が殴られて死亡しています。

2 日系企業と中国労働紛争

 日系企業も例外ではありません。
 幸いにして殺人事件のような事件は発生していないようですが、日系企業も中国の労働紛争に巻き込まれているようです。
 例えば、前記日経新聞の報道によると、北京市内のパナソニック系部品会社では、希望退職者の募集をめぐる労使紛争で、日本人の社長らが従業員のオフィスに閉じこめられるという事件も発生しているとか。

 地元の企業では、少々手荒な方法で人員削減をしているような傾向があるのに対し、日系企業は希望退職者を集うなど、穏健な手法を採用しているような印象です。法律事務所に来る相談も、「なるべくトラブルにならないように人員削減したい」という内容が多いので、手荒なまねはしたくないという配慮があると思います。
 しかし、全般的にいって、同じ手法を使っても、日本国内でリストラをするのに比べれば、中国のほうが紛争が激化しやすい傾向にあるのではないかと思います。特に、中国の場合、日本人との国民性の違いもありますし、中国人に少なからず見受けられる反日感情も考慮すると、特別な配慮が必要でしょう。

 中国でビジネスをやる場合には、いざというときに小規模なリストラですむように、日頃から労働生産性の向上と改善を繰り返し、余剰人員が生じないような労務管理を徹底しておく必要があると思います。
 リストラ全般を見ると、確かに不況のため余剰人員が生じる面もありますが、どちらかといえば、日頃から生じていた余剰人員が不況で顕在化するケースが多いと思います。