1.事件の概要

 横浜市、川崎市で塾を経営している会社を相手に、その塾の元校長が未払残業代の支払を求めて提訴した事件。
 被告会社は、塾校長は管理監督者であるから、時間外手当を支払う必要はないとして争いました。

 この事件につき、横浜地裁は、平成21年7月23日、原告の請求を認容し、被告会社に約1000万円の支払を命じる判決を下しました。
 ファースト・フードの「名ばかり管理職」と同様の趣旨の判例と思われます。

2.解説

 判決の内容は、報道により伝えられる範囲のことしかわかりませんので、この事件についての正確なコメントはできませんが、名ばかり管理職に関する注意点を何点か指摘したいと思います。

 大きく分けると、その管理職の業務内容・権限の問題と待遇の問題に分けられます。
 まず、業務内容や権限に照らすと、そもそも名ばかり管理職といえども、業務内容や権限を全く伴わない名ばかり管理職はあまりいないと思います。例えば、雇用主である企業側の立場からすれば、雑用係の職員に管理職のような肩書きを与えたりはしないでしょう。管理職クラスに見えるような肩書きを付している以上、管理職にふさわしい権限を与えられ、管理職にふさわしい仕事を任されているのではないかと思います。
 むしろ、問題はその待遇にあると思います。
 人を雇用する企業の立場からすると、重要な仕事を任せて大きな責任を負わせておきながら、安い賃金で使いたいという誘惑があります。したがって、問題の本質は、責任と仕事の重さに比較して、待遇が悪すぎる点にあると思います。

 しかし、この事件は、責任や仕事の内容自体も、もしかして管理職クラスのものではない、本当の名ばかり管理職だった可能性が示唆されています。
 というのは、裁判所が指摘しているように、被告会社の正社員48人中、38人が管理職として扱われていたんです。実に正社員の8割が管理職なんです。

 こうなると、ファースト・フードの店長のような待遇の悪い管理職ではなく、そもそも管理職のような仕事すらしていない職員を管理職扱いにしていた可能性があります。そうすると、目的は、専ら残業代の支払いを回避するためだったと受け取られてもやむを得ません。