第1 ガイドラインによる私的整理の位置付け

 前回お話ししたように、私的整理とは、法的手続によらず、債権者と債務者の合意により、集団的に債権債務を処理する手続の総称です。かかる私的整理には、前回触れませんでしたが、清算型と再建型の2種類あります。
 (前回の記事はこちら:企業再建1

 そして、ガイドラインによる私的整理は、再建型に関する場合に限られると共に、一般的私的整理(「企業再建1」参照)をガイドラインに従うという縛りをかけて行う特殊な形態であると考えていただければよいと思います。

 もっとも、ガイドラインによる「縛り」といっても、法的拘束力や強制力があるものではありません。ガイドラインに沿った私的整理をすることが、当事者双方にとって利益となることから、関係当事者がこれを自発的に尊重し、遵守することが期待されている紳士協定のようなものです。

 要するに、私的整理の長所であると同時に短所ともなりうる当事者間の合意による「柔軟な」処理を、一般的私的整理よりも「厳格化」し、一定程度、手続の透明性・公正を図ろうとしたのがガイドラインによる私的整理ということになります。

第2 ガイドラインによる私的整理の要件

 企業がガイドラインを適用して私的整理を行うためには、次の4つの要件を満たす必要があります。

① 企業が過剰債務を主因として経営困難な状況に陥っていて、自力再建が困難であること。
② 企業に利益率の高い事業部門がある等将来性があり、債権者の支援により再建可能性があること。
③ 企業が法的整理を申し立てると、信用力低下により、事業再建に支障が生じる虞があること。
④ 破産、民事再生、会社更生等の手続によるよりも多くの回収見込みがあるなど、債権者にとっても経済的な合理性が期待できること。

第3 ガイドラインによる私的整理の手続

1.手続開始の申出

(1)まず、企業が上記①~④の要件を全て満たすと思われる場合に、再建計画案を作成し、これを主要債権者に提出します。
 主要債権者とは、債権額の多い複数の金融機関をいいますが、銀行等がこれにあたります。

(2)主要債権者は、受け取った再建計画案の実現可能性及び妥当性について検討します。つまり、再建計画案が本当に上記①~④の要件を満たすものなのか、また、対象債権者の同意を得られる見込みがあるのか等について考察を加えるわけです。そして、妥当性判断の際、経営責任を明確化する観点から、経営陣は退任するとの原則が貫かれているか、再建期限を設ける意味で、3年以内の債務超過解消ないし黒字転化を掲げているかといった点をみていきます。 対象債権者とは、再建計画が成立した場合に、権利変更を余儀なくされる債権者をいいます。

(3)上記検討で、再建計画案の実現可能性及び妥当性がともに認められれば、企業と主要債権者の連名で、対象債権者に対し、私的整理期間中の権利の個別行使を差控えることを求める一時停止通知を送付します。実現可能性・妥当性があるか否かの判断は、主要債権者全員の合意により行います。全員の合意がなければ、一時停止通知を送付せず、私的整理は開始されないことになります。
 一時停止通知により、対象債権者の権利行使を一斉に止める以上、企業が一部の対象債権者にだけ弁済するといった行為は禁止されます。

2.第1回債権者会議

(1)一時停止通知は、第1回債権者会議招集通知を兼ねており、通知発送から2週間以内の日を開催日とする第1回債権者会議が招集されます。

(2)第1回債権者会議では、?企業から整理に至った経緯・財務状況・再建計画の内容等の説明、?一時停止期間の決定、?債権者委員会を設置する場合、債権者委員の選任、?手続の適正、再建計画案の相当性、財務状況等を検証するため、必要な場合、アドバイザーとして公認会計士、弁護士その他の専門家の選任、などを行います。

 債権者会議の決議は、出席した対象債権者全員の同意があって成立します。もっとも、出席者全員で同意しても、欠席した対象債権者に決議の効力を及ぼすことはできません。前回説明したように、私的整理は集団的和解契約であるため、多数決で決する性格を持たないからです。ですから、その債権者を対象債権者から除外しても再建計画上影響がないといえる場合でなければ、出席させて同意を得るより他の道はありません。

 ただ、対象権利者の権利義務に関わらない手続的事項は、対象債権者の過半数で決することができます。上述した内容からわかるように、第1回債権者会議の決議事項は手続的事項に限定されているため、対象債権者の過半数の同意で決することが可能となるわけです。

3.調査・報告

(1)債権者委員会(これを設置しない場合は主要債権者)は、企業の財産、帳簿等を占有管理し、これらを調査分析します。

(2)債権者委員会(主要債権者)は、上記調査結果に基づき、再建計画案の実現可能性、妥当性等について、対象債権者全員に報告します。

4.第2回債権者会議

(1)上記報告を参考にして、出席対象債権者が再建計画案の実現可能性、妥当性について意見交換をします。

(2)対象債権者の再建計画案に関する同意書を提出する期限を定めます。

5.再建計画の成否決定

(1)上記期限内に対象債権者全員の同意書が提出された場合、再建計画が成立し、それに従った企業再建が開始されます。

(2)対象債権者全員の同意書を得られなかった場合、再建計画は不成立となり、私的整理は終了します。そして、企業は、法的整理手続をとること検討せねばならなくなります。