賃借人が不安を感じる督促は回避 委託先の回収行為でも家主の責任

相談内容

 賃料を何カ月も滞納する賃借人がいて困っていますが、なかなか連絡がつきません。そこで、勤務先から帰っていると思われる夜間に電話をかけたり、部屋の扉に「一週間以内に未払賃料全額をお支払いください」という内容の張り紙を張るなどして、賃料の支払いを促そうと思うのですが、何か法的な問題はないでしょうか。
 また、管理会社に賃料の取り立てを委託し、賃料回収の手続きを進めるのはどうでしょうか。

回答

 賃料を滞納する賃借人は、電話や手紙等による連絡がつきにくい場合がしばしばあり、回収に苦労する賃貸人も多いと思われます。このような場合に、賃貸人としてどのような賃料督促の手段があるのでしょうか。

 まず、昼間に電話をかけても賃借人と連絡が取れないことから、遅い時間帯に電話をかけて賃料を督促したり、未払い賃料の支払いを求める督促状を部屋の扉に張り付けたりする方法を検討してみましょう。賃料の支払いは賃借人の基本的な義務であり、その履行を求めること自体がただちに違法になるとは考えられませんが、他方で、過剰な督促行為により、賃借人にプレッシャーを与えてしまうと、仮に賃料の支払いを受けられたとしても、賃貸人による強制により精神的損害を被ったとして、将来的に不法行為責任を問われることもあり得ます。

 たとえば、貸金業法では、貸金業者が、正当な理由がないのに、午後9時から午前8時までの時間帯に債務者に電話をかけることや、張り紙などの方法で債務者の借り入れに関する事実を債務者以外に明らかにすることが禁じられています。もちろん、賃貸人は貸金業者でない場合がほとんどですので、貸金業法の規定がそのまま適用されるわけではありませんが、債権者と債務者の間に力の不均衡があるという意味では、これらの規定は、賃貸人と賃借人の関係を考える上でも参考になるものと思われます。やはり、夜9時以降の深夜帯に、賃借人に対して電話をかけて賃料を督促したり、督促状を扉に張り付けて、賃料未払いの事実が他の賃借人にも明らかになるような形で賃料を督促したりする行為は、賃借人に強い不安感を与える督促方法であり、違法と認定されるおそれもありますから、避けるべきであると思われます。

 裁判例においては、管理会社の行為が不法行為と認められた事案ではありますが、ドアに「荷物は全て出しました」との張り紙を張って賃借人に強迫観念を植え付けた行為を違法とするもの(姫路簡裁平成21年12月22日)がありますし、賃借人に強い不安感を与えうる督促行為は、リスクが大きいというべきです。

 次に、管理会社に賃料の取り立てを委託する場合を考えてみましょう。管理会社は、回収のノウハウを豊富に持っており、賃貸人が自分で督促するよりも容易に賃料を回収できると考える方もいるかもしれません。

 しかしながら、管理会社や保証会社が過度な取り立てや追い出し行為におよんだ場合に、最終的に賃貸人が責任を問われるおそれがないとは限りません。大阪高裁平成23年6月10日では、管理会社従業員と賃貸人が親族関係にあった事案ですが、管理会社が行った追い出し行為が、賃貸人が管理会社に与えた包括的な代理権に基づくものであるとして、賃貸人の不法行為責任が認められていますし、上記姫路簡裁平成21年では、賃貸人と管理会社の間に実質的な指揮監督関係があるため、賃貸人が管理会社の行為につき使用者責任を負うとの判断がなされています。管理会社の過度な督促行為や追い出し行為があった場合に、賃貸人が管理会社に部屋の合鍵を交付しているなど、賃貸人が管理会社の過度の督促行為を容認していたとみられる事情がある場合には、賃貸人も不法行為責任を問われる可能性がありますから、注意が必要です。