相談内容

 賃貸物件内で漏水が生じ、入居者の私物に汚損等が生じてしまいました。漏水の原因は確認することができたため、修繕は完了したのですが、汚損等が生じた私物に対する弁償や不便が生じた期間の家賃の減額などを求められています。汚損等が生じたのは靴や洋服などが中心であり、一部パソコンや電化製品等にも水がかかったようです。

 家賃の減額や買い替えるため費用の請求に応じなければならないでしょうか。

回答

 賃貸物件では電気、ガスおよび水道などのライフラインは不可欠であり、これらの利用がうまくいかなくなった場合には、トラブルになりがちです。とはいえ、これらのライフラインの根幹は公共事業等が担っている部分もあり、なかなか事前の対処が確実にできずに、トラブルを回避することは容易ではありません。

 そもそも、水道に関するトラブルについて、賃貸人が必ず責任を負わなければならないのかという点ですが、裁判例の多くは、漏水や雨漏りについては、よほどの不可抗力による天災地変などでない限りは、定期的なメンテナンス、必要に応じて部品を交換しておく義務を前提として、管理不足を認定して、賃貸人の責任を認めることがほとんどです。

 したがって、ご相談のように、漏水が生じた場合には、①賃貸物件自体の利用が妨げられるという点、②漏水の影響で汚損や破損が生じる私物に対する賠償範囲といった点が問題となることが多いでしょう。

 漏水により、賃貸物件の利用範囲自体が限定されてしまった場合には、漏水により利用できなかった期間の賃料については請求することはできず、賃料の減額に応じざるを得ない部分もあると思われます。しかしながら、利用できなかった期間に応じるものですので、速やかに漏水を止めて利用を再開することができる程度の状態を整えることができれば賃料の減額に応じる理由はほとんどなくなります。したがって、賃料減額の要求を最小限に抑えるためには、可能な限り速やかに漏水を止めるための修繕を実施することということになります。

 次に、私物等に対する損害ですが、2点押さえておいていただきたいポイントがあります。

 まず、私物等に汚損等が生じたとしても、その後も使用できる程度の汚損等であれば損害と認められることがほとんどないということです。漏水により水滴がかかったことや異臭が付着したことなどを理由に買い換えを求められるような場合がありますが、裁判例においては、水分を拭き取り乾燥させることにより効用を回復することができる場合には、損害として認めていません。また、家電製品などについても、将来にわたっての動作保証ができないことを理由に賠償を要求されることがありますが、こちらについても、裁判の時点で動作や機能に支障が生じていなければ損害とは認められていません。

 次に、仮に、汚損や破損等の程度が激しく、漏水による損害が生じたと認められる場合であっても、新品を購入する代金を賠償する必要があるわけではないということです。賠償しなければならない範囲は、損害が生じたとき、すなわち漏水によって壊れたときの価値です。したがって、経年劣化による価値の減少を考慮して損害賠償の額が定められることになります。経年劣化の評価基準が定まっているわけではありませんが、安価な物については新品の2分の1程度の価値を認定する例や、購入後約14年程度経過している場合には、新品の10分の1程度と認定している例があります。

 実際の紛争においては、厳密な損害額を算定して解決することは必ずしも多くありませんが、損害として認められる範囲を把握して対処することが肝要かと思われます。