相談内容

 部屋を借りている夫婦の仲がうまくいっておらず、最近は一層険悪になってしまったようで、夫が部屋を出て行ってしまい、今は妻と未成年の子供の2人で利用しているようです。

 賃貸借契約は、夫の名義で締結しており、夫は部屋を出て以降、賃料を支払わなくなってしまいました。妻も夫が支払うべきといって支払うつもりがありません。

 夫婦間のトラブルに巻き込まれて賃料が支払われないのは困るのですが、どうすればよいでしょうか。

回答

 夫婦で利用している物件においては、契約名義は夫か妻のいずれかとなっており、双方を共同賃借人としていることは少ないと思います。このような場合、契約名義人である夫などが物件を利用していない場合、自らが居住する場所とは異なるため責任感が減退してしまい、賃料が滞ってしまうことがあります。とくに、ご相談のような夫婦仲が悪化してしまったようなケースであればなおさらです。

 最も大きな問題は、賃料が支払われないということですが、誰から支払ってもらうべきでしょうか。当然ながら、契約名義人である夫は、たとえ現実に居住していなかったとしても、賃貸借契約の当事者である以上、支払義務を免れることはできません。とはいえ、責任感が減退してしまっており、むしろ自分に賃料支払義務を生じさせ続けている妻には退去してもらいたいという場合も多く、あえて賃料支払いを滞らせてしまう場合もあるため、支払いを期待することは難しい場合もあります。

 ご相談内容からは少しそれますが、妻に賃料を支払ってもらえれば、妻が住み続けることはできるのでしょうか。現在の民法では、利害関係のない第三者による弁済は、契約当事者の意思に反しないことが必要とされており、そうすると、仮に、妻から賃料を受領したとしても、契約名義人である夫が妻による支払いに反対すれば(妻を退去させたい夫であれば反対するでしょう。)、有効な賃料の支払いとはならないため、賃貸人は妻へ返金しなければならないということになります。

 ただし、妻が、利害関係のある第三者であれば支払うことができますので、例えば、連帯保証人になっている場合などは、夫の反対があっても支払いを受けることができます。とはいえ、契約名義人と異なる人物を入居させ続けることも適切ではないため、妻の入居を継続させるのであれば、夫との間の賃貸借契約を解除した後、妻と改めて賃貸借契約を締結すべきですが、資力などの問題から審査が通る見込みもないということであれば、契約を締結しなおすことも難しいかもしれません。

 したがって、夫との賃貸借契約を終了させたのち、妻と改めて契約することが難しい場合には、妻と子供に退去してもらうよう手続きを進めるほかなさそうです。

 過去の裁判例では、内縁状態の夫婦と子供らが居住していた賃貸物件から、契約名義人であった内縁の妻と子供らが、賃貸人に無断で退去し連絡がつかなくなってしまい、夫と子供1人が住み続けていた事案について、賃貸人から妻に送付した解除通知を有効と認め、夫と子供1人は不法占有していることになると判断したものがあります(東京地裁昭和39年8月28日判決)。

 ご相談の事例に即して検討すると、無断退去に加えて賃料の未払いもありますので、夫に対して賃貸借契約の解除を通知し、その後、賃貸物件を使用している妻および子供に対して、建物の明渡請求を行うことが考えられます。なお、先述の裁判例では、未成年ではない子供については、別世帯として独立の生計があることを理由に裁判の被告に加えておく必要があることも示唆していますので、子どもの年齢なども考慮しながら、請求の相手方を検討する必要があります。