あまり知られてはいませんが、野鳥の巣は、実は、ダニやノミ等の害虫の温床となっています。野鳥の血液を好むそれらの害虫が親鳥とともに巣に発生し、野鳥の滞在中に繁殖していくのですが、雛鳥が巣立って鳥の巣が空になると、寄生先を求めて巣床となった施設内に侵入するという事案が実際に起こっているようです。
 住宅等は、入居者が日常生活を送ることを前提に入居することが前提となるため、住宅等の提供者としては、居住に適した状態で賃貸し、あるいは使用等(「賃貸等」といいます。)させる義務を負います。そのような施設において、人身に被害が生じる害虫が発生する状況は居住に適した状況とは言えず、これに対応しないことが義務不履行と評価される可能性があります。この場合、害虫により身体に被害が生じれば、その療養のための診察、薬剤の費用や通院費、あるいは苦痛に伴う慰謝料等が、また、害虫によって居住ができない状況にまで至ったということになれば転居費用等が、支払うべき賠償金に該当する可能性が生じます。

 では、害虫が繁殖する前に巣を除去してしまえばいいかというと、これについては別途の法規制に留意が必要です。
 我が国においては、法令により、鳥類及びその卵に対して、捕獲、採取又は損傷する行為が禁止されており、環境大臣または都道府県知事の許可を受けたうえでなければ適法に行うことができないとされています(違反に対しては、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)。そのため、除去対象の巣の中に、鳥が生息し、あるいは卵が置かれている状況においては、上記許可を受けた業者以外は自らで巣の除去を行うことはできないものとされています。
 これに対し、野鳥が巣立って空になった巣を除去することに対しては、上記規制は及びません。この場合には、害虫繁殖の有無の確認と、繁殖していた場合にしっかりと駆除できるような措置も併せて取る必要があると考えられます。