市区町村長による申立てについては、民法ではなく、老人福祉法や知的障害者福祉法等にて定められています。身寄りのない認知症高齢者等が、親族がいないために成年後見の保護が受けられないという事態を避けるため、これらの福祉関連法において、市区町村長にも申立権限を認めることにしたものです。

 そして、老人福祉法32条は、市区町村長は、65歳以上の者(65歳未満の者でも特に必要があるものを含む)について、「その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」に申立てができるとしています。
 この「その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」とは、「本人に2親等内の親族がない又はこれらの親族があっても音信不通の状況にある場合であって審判の請求を行おうとする3親等又は4親等の親族も明らかでないなどの事情により、親族等による法定後見の開始の審判等の請求を行うことが期待できず、市町村長が本人の保護を図るために審判の請求を行うことが特に必要な状況にある場合」をいい、これらの状況にある者について高齢者福祉サービスの利用や、それに付随する財産の管理など日常生活上の支援が必要と判断される場合に、申立てを行うか検討するという解釈が厚生労働省より示されています。
 なお、ここにいう親族がない場合や親族があっても音信不通の状況にある場合は例示であり、行政実務では親族がいてもネグレクト等により、当該親族による申立てが期待できない場合にも申立てが行われており、裁判所もこのようなケースについて「その福祉を図るために特に必要があると認めるとき」にあたるという判断が示されています(東京高等裁判所決定平成25年6月25日)。

 成年後見等が必要な高齢者について、親族等による申立てが期待できない場合には、市区町村長による申立ての利用を検討してみるとよいでしょう。