このような仕組みの場合、お客様が2部屋予約したつもりでも、1部屋の予約がシステムに入力されていたら、お客様による入力ミスの可能性が高いと考えられます。お客様が予約した内容は、システムの履歴を確認すれば、一見して分かるものですが、お客様が間違った予約情報を入力したにもかかわらず、あくまでも「2部屋予約した」と主張された場合、ホテル・旅館としてはどのように対応するべきでしょうか。

 もちろん、客室に空き室があれば、そのままお客様に2部屋を提供すればよいですが、満室で稼働している場合には、それも難しくなります。対処方法として近隣のホテル・旅館を紹介するという選択肢もありますが、宿泊料金が同額であるとは限らず、自社の宿泊料金との間に差額が生じる場合、紹介するホテル・旅館との宿泊費の差額を負担するよう求められる可能性も捨てきれません。

 通常、ホテル・旅館が宿泊に関する契約上の義務に違反してしまい、これによってお客様に損害が生じた場合、宿側は損害賠償責任を負うことになると考えられます。宿側に予約受付の際のミスが認められれば、契約の義務違反があるといえます。その結果、お客様が希望するホテル・旅館に、お客様が宿泊できなかったのですから、代替となるホテル・旅館の宿泊代は、その全額をもとのホテル・旅館が負担しなければならないと考えられます。

 一方、お客様が予約の際に部屋数を間違えた場合、そもそも2部屋全ての宿泊契約は成立しておらず、予約を受け付けたホテル・旅館に責任は無いと考えられます。これは予約内容の確認メールをお客様が見過ごしたとしても同様です。代替の宿泊が必要になったとしても、法的にはその宿泊代金をもとのホテル・旅館が負担する必要はありません。

 ホテル・旅館側にミスがあったかないかは、システムに入力された予約情報とお客様に送信した予約内容の確認メールを照合すれば、すぐに判明するでしょう。このような証拠は、ホテル・旅館側に宿泊に関する契約上の責任が生じないことの証拠となり、仮に、裁判上の争いになったとしても、敗訴するリスクは小さくなると考えられます。

 もちろん、法律的にそうだとしても、ホテル・旅館はお客様におもてなしの心で接することが求められるサービス業です。レピュテーションリスク(評判や風評に対するリスク)が生じ得ることを考慮すると、もちろん全額ではないにしても、差額負担などの配慮も考えられるでしょう。