回答

 賃貸物件の所有権が移転することにより、賃貸人が変更となることは、最高裁の判例においても判断されており、法的には当然のこととされています(最判昭和33年9月18日判決等)。

 この場合、敷金に関する権利関係がどのようになるのかについても、最高裁の判例が一定の見解を示しています。昭和44年7月17日の最高裁判決は、

「敷金は、賃貸借契約の終了の際に賃借人の賃料債務不履行があるときは、その弁済として当然にこれに充当されるせいしつのものであるから、…賃貸人の地位に承継があった場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、賃借人の旧賃貸人に対する未払賃料債務があればその弁済としてこれに当然充当され、その限度において敷金返還請求権は消滅し、残額についてのみその権利義務関係が新賃貸人に承継されるものと解すべきである」

と判断しています。

 このことを本件にあてはめてみると、まず、旧賃貸人との間で未払賃料があった場合には、当然充当ということになりますので、旧賃貸人の承諾を得る必要はありません。次に、敷金に関する権利関係は、新賃貸人と賃借人である入居者間に移転しているということになりますので、原状回復に関する精算については、新賃貸人から承諾を得て行動すべきということになります。

 なお、上記判例が示しているのはあくまでも賃貸借契約の地位の移転に関する判断であって、賃貸人の地位が移転するからといって管理委託契約も当然に移転するとは考えられていません。したがって、管理委託契約を終了するのであれば、未払賃料を差し引いた金額を新賃貸人へ返還して、その後の原状回復の精算については、新たな賃貸人が行うようにするということも考えられます。