回答

 賃貸物件による自殺は、賃貸人が損害を被ることはもちろん、近隣の入居者にとっても住み心地を悪化させるという無視できない影響が生じます。

 賃貸物件の入居者は、賃貸物件の利用について善管注意義務を負っている以上、賃貸人に対して自殺をしない義務を負担しています。ただ、本人は死亡してしまっている以上、損害賠償責任は、その相続人に承継されますので、賃貸人は相続人の方に対して責任を追及することになります。ただし、相続人の全員が相続放棄をしてしまうような事態になると、相続財産管理人の選任を行うなど、費用をかけて手続を進めなければならなくなり、費用対効果が合わないという事態も生じる可能性があります。

 それでは、相続人以外へ請求することはできないでしょうか。一つの候補としては、賃貸借契約の連帯保証人が考えられます。例えば賃貸借契約から生じる一切の債務を連帯保証している場合、連帯保証人に対しても請求することができます。連帯保証人と相続人が重複しており、相続放棄をした場合であっても、連帯保証契約に基づいて請求するということも考えられます。

 このほか、賃借人に対して、直接の損害賠償請求ができないでしょうか。過去の裁判例においては、無断転貸の事例ではあるものの、入居者に自殺させないよう配慮する義務があることを認めて、損害賠償責任を肯定した例があります。したがって、賃借人に、損害賠償責任を追及するということも十分検討に値します。

 このような場合の損害としては、将来減額せざるを得ない賃料として、当初1年は賃料を半額、その後2年は4分の1程度と想定して、合計約2年分程度の損害を認めた裁判例などが参考になります。