カードの名義人の許諾を得ずに使用した場合

 窃取等の不正な手段によって取得した他人名義のクレジットカードを使用した場合、詐欺罪が成立することに実務上争いはありません。近年、詐欺罪が成立するためには「実質的法益侵害」が必要と考える立場が有力となっていますが、この立場からも、クレジットカード制度は名義人の信用力を前提としているものであり、名義人の許諾を得ずに不正に使用した場合には、名義人の信用力を前提として成り立っている信用販売取引の目的が達成できないという理由により詐欺罪の成立が肯定できるものと考えられます。

カードの名義人の許諾を得て使用した場合

 2の場合とは異なり、他人名義のクレジットカードを使用するにあたって、カードの名義人から使用について許諾を得ていた場合はどうなるでしょうか。
 この点、被告人がクレジットカード加盟店であるガソリンスタンド(名義人以外の者によるクレジットカードの利用行為には応じないこととなっていました。)において、名義人に成り済ましてクレジットカードを使用し、ガソリンの給油を受けたという事例について、最高裁平成16年2月9日決定は、

「被告人は、本件クレジットカードの名義人本人に成り済まし、同カードの正当な利用権限がないのにこれがあるように装い、その旨従業員を誤信させてガソリンの交付を受けたことが認められるから、被告人の行為は詐欺罪を構成する。
仮に、被告人が、本件クレジットカードの名義人から同カードの使用を許されており、かつ、自らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に従い名義人において決済されるものと誤信していたという事情があったとしても、本件詐欺罪の成立は左右されない。
したがって、被告人に対し本件詐欺罪の成立を認めた原判断は、正当である。」

と判示し、クレジットカードの使用について、名義人の許諾があった(と誤信していた)としても詐欺罪は成立するものと判断しました。

 最高裁は、他人名義のクレジットカードを使用した場合、名義人の許諾の有無にかかわらず詐欺罪が成立するという立場をとっているものと考えられますが、例えば、名義人が配偶者にクレジットカードを貸与するといった場合など、実質的に名義人による使用と同視できるような場合にまで、詐欺罪が成立するものと考えているかは、上記決定からは明らかでありません。