今回は、替え玉受験に関する裁判例(東京高裁平成5年4月5日判決)をご紹介いたします。

 本件は、私立大学の入学試験に際して、替え玉受験を計画した被告人らが、現役の大学生等に受験生に替わって受験させ、受験生作成名義の試験答案を作成し提出したという有印私文書偽造・同行使罪の成否が問題となった事案です。

 主な争点として、①答案は私文書偽造罪の対象となる「事実証明に関する文書」といえるか、②被害者(名前を使われた受験者)が承諾している以上、私文書偽造は成立しないのではないか、という点が問題になりました。

 ①の点について、裁判所は、

「入学選抜試験の答案は、試験問題の各設問に対し、受験した志願者が正解と判断する意識・判断の内容を所定の解答用紙に記載した文書であるところ、これが担当者によって採点、集計され、その結果は、受験した志願者の学力を示す資料として、入学選抜試験の合否を判定する教授会に提出され、これらの資料を基に、教授会において受験した志願者に対する合否の判定か行われ、合格の判定を受けた者が入学を許可されることになっていることが認められる」

ものであることから、「実社会生活にとって重要な意味を持つ事実証明に関する文書」であると認定している。

 ②の点について、裁判所は、そもそも承諾があった事実は認定していないものの、仮に、承諾するものがあったとしても

「本件各答案は、志願者本人の学力の程度を判断するためのものであって、作成名義人以外の者の作成が許容されるものでないことは明らかであるから」

私文書偽造罪等の成立を妨げるものではないとし、本件において有印私文書偽造罪及び同行使罪の成立を認めました。