我々法曹界に身を置くものにとっては重大ニュースである事件が、今年の9月に発覚しました。司法試験の考査委員であった、元明治大学法科大学院教授の青柳幸一氏が、平成27年度の司法試験の問題の一部を、試験前に受験生に漏らしていた疑いがあるというものです(http://www.sankei.com/affairs/news/150908/afr1509080010-n1.html)。

 司法試験とは、裁判官、検察官、弁護士の「法曹」資格を取得するための国家試験で、毎年1回、5月に論文式試験4分野8科目(公法(憲法・行政法)、民事法(民法・商法・民事訴訟法)、刑事法(刑法・刑事訴訟法)、選択科目(倒産法、労働法、知的財産法などから1科目を選択))、マークシート式の短答式試験3科目(憲法・民法・刑法)で実施されます。
 今回は、このうち、憲法での問題漏えいがあったことが疑われています。

 なお、司法試験を受験するためには、法科大学院と通称される専門職大学院を修了するか、あるいは、司法試験予備試験という別の試験を受験して合格しなければなりません。
 また、司法試験に合格しても、その後、司法修習という国による研修を1年間受け、その最後に司法修習生考試(通称二回試験)と呼ばれる試験を受けて、これに合格しなければ法曹資格を取得することはできません。

 前置きはこれくらいにして、今回は、その司法試験に関し、問題を漏らしたことが罪に問われているわけです。

 これが一体何の罪に当たり得るのかというと、国家公務員法違反の罪です。国家公務員法はその第100条で国家公務員に対して「秘密を守る義務」、いわゆる守秘義務を課しています。そして、同法第109条12号は、守秘義務違反の行為に対して、1年以下の懲役又は50万円以下の罰則を定めており、今回はこの罪が問題となっているわけです。
 というのも、青柳元教授が務めていた司法試験考査委員は、法務省の司法試験委員会に属し、法務大臣に任命される非常勤の国家公務員だからです。

 当然のことながら、同様の規定は地方公務員法第34条及び同第60条1号にもあります。
 また、これもあたりまえのことですが、われわれ弁護士も、弁護士法第23条において守秘義務を課せられており、相談者の皆様や依頼者の皆様から得た情報を他に漏らしてはならない義務を負っています。

 そして、弁護士や医師などの専門職が職務上知り得た秘密を正当な理由なく漏らした場合には、刑法第134条により、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられることとされています。

 なお、「秘密」とは、少数者にしか知られていない事実で、既に広く知られている事実(公知の事実)は秘密足り得ません。判例は、「秘密」について、国家公務員法第100条1項に関する判断で、「非公知であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるもの」をいうとしています。

 一般の方々が秘密漏えい・漏示の規範に触れることはそう多くはないかもしれません。しかし、会社等の営業秘密に触れうる立場にある人であれば、会社の秘密に関して不正競争防止法違反に問われる可能性がありますし、裁判員に選任された場合にも、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第70条及び同第79条により守秘義務違反の罪に問われる場合があり得ます。

 仮に刑事手続の対象にならない場合でも、秘密を漏らしたことにより損害を受けた人や団体等から、損害賠償の支払いを求めて民事訴訟を提起されることがあるかもしれません。人の秘密を知った場合、安易にそれを他の人に伝えることがないよう心しなければならないということでしょう。