弁護士 金﨑 浩之 

 司法修習生の貸与制についてですが、ボクは、近いうちにこの制度は崩壊するのではないか、いや崩壊させなければならないと思っています。

 ボクが司法修習生だった時代は、司法修習生に対して、国家公務員に準じた基準で給与が支払われていました。

 ところが、65期の司法修習生からこれが廃止となったんです。弁護士会で有志の弁護士さんたちがこれに反対し、署名活動も行いました。ボクもこれに署名しました。
 しかし、残念ながら廃止となってしまったんです。

 なぜ廃止になったのかというと、合格者が増加したことに伴い、司法修習生も増加したため、修習生に支払う給与を国が負担することがしんどくなったからです。

 でも、この制度、最初から矛盾を抱えておりました。

 修習生に給与を支払わない、としておきながら、つい最近まで”兼業禁止”が維持されていました。つまり、司法修習生は、修習に専念する義務があるので、副業を持ってはならないということです。

 しかし、給与をもらえないのであれば、修習は仕事ではないはず。兼業とはどういう意味なのか?
 兼業であれば修習も仕事であることが大前提となるが、無給ということは、完全に労働基準法違反ではないのか?
 さらには、弁護修習であれば訴状や準備書面の起案もさせられるし、裁判修習であれば判決起案もさせられる。検察修習に至っては、被疑者の取り調べ(本物の被疑者が相手なので練習やシュミレーションのレベルではありません)までやらされるんです。
 修習とは言うものの、実務家の業務の一部を確実に担当しているんですよ。
 それなのに、無給というのはすごい!

 そして、無給であれば、どうやって生活していくのか、という切実な問題が出てきます。そこで、”貸与制”となったわけです。
 要するに、給与の代わりにお金を貸すということです。
 こうして、修習生は、借金生活が始まるわけです。

 それだけではありません。あまり借金したくないという修習生もいるはずですから、貸与制だけで無給を維持するのは困難です。

 そこで、国も、修習生のアルバイトを認めるようになったそうです。今の司法修習生は67期ですが、修習に支障が生じない範囲内でアルバイトの許可が下りるようになったそうです。兼業禁止の緩和処置です。

 しかし、如何にアルバイトが許容されるとしても、修習生は午前10時から午後5時までフルタイムで拘束されています。アルバイトをするといっても、時間的に限られてきます。完全禁止よりはマシかもしれませんが、アルバイト収入もたかが知れています。
 これでは経済的に行き詰まっていきますよね。

 そして、何よりも深刻なのは、修習が不十分となることです。

 ボクらの時代は、修習期間は2年でしたが、今は1年に短縮されました。修習期間が半分になったうえに、修習生がアルバイトに走るようでは、当然修習はおろそかになります。

 弁護士会はこれを補完するために、新規登録弁護士の研修を充実させる方向に動いています。
 つまり、修習を終えても使い物にならないため、弁護士になったあとも、研修が継続されているんです。

 ちなみに、弁護士になった65期の有志の人たちが、弁護団を結成して、国を相手に訴訟も起こしているそうです。

 走り出し早々から制度疲労を起こしている、この無給制・貸与制…。いつまで続くのでしょうか?