弁護士 金﨑 浩之 

 多くの司法修習生と面接をしていると、うちにapplyしてきた理由として、「御事務所であれば、様々な分野の事件を経験できると思いましたので…」という志望動機をよく耳にします。

 確かに、弁護士法人ALGでは、M&Aや契約書レビューなどの企業法務から、労働事件、不動産訴訟、交通事故、医療、家事などといった様々な分野を取り扱っております。
 また、英語、ロシア語にも対応できるので、外国人又は外国法人をクライアントとする案件も少しあります。

 しかし、うちの事務所は、取扱分野毎の専門事業部制を採用していて、所属弁護士は、いずれかの事業部に所属することになるので、個々の弁護士単位でみると、様々な事件を経験できるわけではありません。
 例えば、企業法務事業部に所属する弁護士は、法人顧客の案件しかやりませんし、医療事業部に所属した弁護士は医療過誤事件しかやりません。弁護士単位で見ると、非常に案件が偏った(?)法律事務所なんですね。

 どうしてこんな制度を導入したのかというと、クライアントが求めているのはスペシャリストであって、ゼネラリストではないからです。遅れている弁護士会でさえ、「専門弁護士認定制度」の創設を検討し始めているんです。なので、うちの事務所の方向性は正しいと自負しています。

 でも、多くの司法修習生、いや若い勤務弁護士でさえ、取扱分野の専門特化を嫌う傾向があります。

 その理由をボクなりに考えてみました。

 第1に考えられるのは、色々な案件をやっていたほうが飽きなくて楽しい。いつも似たような事件ばかり担当するのはつまらない、という理由です。
 第2の理由は、将来もしかしたら独立するかもしれない。その時に、限られた案件しかできないのは不安がある、という理由です。
 おそらく、この2つの理由のいずれか、又は両方が主な理由だと考えられます。

 まず第1の理由ですが、これは多少気持ちが分かります。弁護士も人間ですから好奇心があります。様々な事件を経験することによって、価値観も広がり、もしかしたら人間的成長にも多少寄与するのかもしれません。
 実際にうちでも、専門事業部制を導入する際に、一部の勤務弁護士からの抵抗がありました。

 しかし、実際に導入してみると、所属する勤務弁護士の満足度は向上しているようです。第1に、以前よりも勤務弁護士が早く帰れるようになった点です。土日返上で仕事をする弁護士もほとんどいなくなりました。経験値の飛躍的上昇で効率よく仕事ができるようになったためだと思います。
 また、事業部への帰属意識も高まり、一体感が強まるようになりました。これは思わぬ副産物でした。
 その結果、勤務弁護士の定着率が向上しました。独立や移籍を考える弁護士は今ほとんどいなくなったんです。

 第2の理由はある意味深刻な理由だと思います。就職した事務所で一生働けるかどうかは誰にも分かりません。万が一独立ということになった場合、特定の専門分野しかできないのは極めてリスキーなのではないか、と考えてしまう…。
 しかし、これは昔であれば兎も角、今は違います。専門分野に特化せずに独立するのはあまりにもリスキーです。
 今は広告をやらないと仕事がない時代です。もし独立したときに、専門分野がないと、交通事故も離婚も債務整理も全部やる、ということになるでしょう。そうすると、全ての分野に広告費を投入しなければならなくなります。独立したばかりの弁護士にそんな資金あるんですか?逆に、今は広告である程度仕事を集められる時代です。経営資源が限られている独立したばかりの弁護士が取るべき経営戦略は”選択と集中”です。フィリップ・コトラーの言葉を借りるまでもなく当然です。

 うちを独立した弁護士はみんな欲張ってしまったために、5年前に独立していても未だに勤務弁護士も採用できません。多分、自分が食べていくのが精一杯なのでしょう。そのうち、自分自身も食べれなくなるのではないかと見ています。
 他方、ボクの友人弁護士で、5年前はひとりも勤務弁護士がいなかったのに、離婚に特化して今では、数名の勤務弁護士を抱えています。

 もうゼネラリストの時代は終わりました。
 所属事務所でパートナーを目指すにせよ独立開業するにせよ、ゼネラリストではやっていけない時代が来てしまったんです。

 若い弁護士の皆さん、専門分野を持ちましょう。時代の波に乗り遅れないために…。