弁護士 金﨑 浩之 

 今日も大学院の医学研究科で講義を聴いてきました。

 さて、昨日の疫学的(統計的)リスク分析のお話の続きです。

 ある疾患(結果)に対して、その原因となっている事情がひとつしかないことはまれで、通常は複数の原因力が複雑に影響し合って結果を発生させているはずです。

 例えば、喫煙と肺がんとの関係で言えば、喫煙が唯一の原因力と断言できるかというとそんなはずはなく、車社会の下では、ほとんどの人が排気ガスに暴露されております。
 排気ガスの吸引が肺にとって不健康であることは自明の理ですから、肺がんとの関係を考える場合、これを無視することはできません。

 複数の原因が考えられる場合、いずれの原因が結果に対して大きく影響しているかを考える。これが”寄与度”の問題です。

 教授は、この寄与度の分析についても、疫学的(統計学的)分析が有用であるという趣旨のお話をされていました。

 でも、ちょっと待たれたい!

 統計学で本当に寄与度までわかるのでしょうか?

 例えば、先ほどの喫煙及び排気ガスと肺がんの関係について考えてみましょう。

 ほとんど全ての人が排気ガスに暴露されて生活しているのに肺がんの罹患率が小さい。しかるに、喫煙者となると、いきおい肺がん罹患率がその何倍にも上昇する。
 なので、肺がん罹患に対する喫煙の寄与度のほうがはるかに大きい。

ということになりそうです。

 しかし、これは数字のトリックです。

 例えば、崖の近くでAさんがXに背中を押されました。BさんもCさんもDさんもXに背中を押されました。でも、崖から転落しませんでした。
 ところが、EさんはXに背中を押された後、Yにも背中を押され崖から転落しました。Fさんも同様に、Xに背中を押された後、Yにも背中を押され崖から転落しました。
 さて、Xにだけ押された人たちは誰も転落していないのに、XとYに押された人は転落しているので、これだけみると、転落に対する寄与度は、Yのほうが大きいようにも思えます。

 しかし、本当にそうだと言い切れるでしょうか?

 もしかしたら、Xに押された人は、10メートル吹っ飛び、ぎりぎり崖の手前で停止し転落を免れたのかもしれません。
 ところが、その後Yが出てきて軽く背中をポンと押したため、EさんとFさんだけ転落したとしたらどうでしょうか。

 どう考えたって、10メートルも吹っ飛ばしたXの寄与度のほうが大きいですよね。

 さて、このようなケースの場合、本当はXの寄与度の方が大きいのに、転落した人は、Yに押されて転落しています。
 この寄与度の違いを統計学でどうやって確認できるのでしょうか?
 Yに押されて転落しているのだから、Yの寄与度の方が大きいと評価されるのが関の山ではないでしょうか…。

 このことを先ほどの排気ガスと喫煙の肺がんに対する寄与度について当てはめた場合、確かに喫煙によって肺がん罹患率が飛躍的に上昇していても、もしかすると、排気ガスの悪影響によって、肺がんの一歩手前までいっていたかもしれません。喫煙は、その背中をポンと押しただけかもしれない。
 いや、それは違うという人は、何を根拠に違うと言えるのでしょうか。

 寄与度に関する統計学的数値にもミスリードの危険が潜んでいると思います。