2月1日のブログで、政府のインフレ政策の話を書きましたが、補足しておきたいことがあります。

 inflationという言葉を日本語で「物価の上昇」と訳したことについて、この訳語がinflationに関する誤解を産んでいると思います。物価の上昇として理解してしまうと、国の経済が病んでいる時に起こるhyper-inflationが分からなくなります。

 これに対して、経済学を多少なりともかじったことがある人は、

inflationとは、物価の上昇ではなく、「貨幣価値の下落」である、と表現する人がいます。確かに、物価が上昇していれば、裏から見ればおカネの購買力が下がっているわけですから、物価上昇には、貨幣価値の下落という側面もあります。
 しかし、これだと、demand-pull inflationを上手く説明できません。

 結局、「物価の上昇」も「貨幣価値の下落」も、一面では正しいのですが、このいずれかでインフレの全てを説明しようとすると間違いをおかしてしまうということです。

 大事なことは、inflationの中には、「物価の上昇」と評価できるものと、「貨幣価値の下落」と評価できるものがある、ということを理解することだと思います。

 例えば、財やサービスに対する需要が増えたことによるinflationは、物価の上昇と解釈すべきです。その財・サービスに対するニーズが増えたわけですから、「物・サービスの価格が上がる」のは当然でしょう。これは、競売で欲しい人がそこに群がれば、価格が上がるのと同じです。

 これに対し、円安が原因で発生した日本国内のinflationは、財やサービスに対するニーズが増えたわけではなく、まさに日本円の価値の下落と言えますので、「貨幣価値の下落」と言うべきです。また、古くは、フォークランド紛争でアルゼンチンがイギリスに戦争で負けた際、アルゼンチンでhyper-inflationが発生しましたが、これもアルゼンチンの通貨の下落です。

 日本の場合、inflationを物価の上昇と訳してしまったために、問題の本質が分かりにくくなってしまった。だから、money supplyを増やせば、物価が上がる→企業が儲かる→景気がよくなる→雇用が拡大もしくは給与が上がる、みたいな物語が信じられてしまっているのではないかという気がしますね。