1 はじめに
皆様、こんにちは。
今日は、自動車ではなく、皆様もよく乗ることの多い自転車を題材にしたいと思います。
近年、社会的にも問題となっている歩行者と自転車の事故及び自転車同士の事故(以下、「自転車事故」といいます。)に関して、自転車でもし事故を起こしてしまった場合に、どのようにして損害が算定されるのかということを考えていきたいと思います。
2 自転車事故と自動車事故の違い
多くの方は、事故といえば、自転車事故ではなく、自動車と歩行者や自転車の事故、自動車同士の事故(以下、「自動車事故」といいます。)について想起されると思います。
このような自動車事故においては、当所の弁護士も書いているように、「損害賠償額算定基準」(カバーが赤いので赤い本や赤本と呼ばれます。)や「交通事故損害賠償額算定基準」(カバーが青いので青い本や青本と呼ばれます。)が、損害の算定にあたってその基準として用いられています。
では、自転車事故についても同様に、上記赤本や青本に記載された額を基準として損害が算定されるのでしょうか。損害の算定において、自転車事故の場合、自動車事故と対比して損害の算定にあたって違いがあるのかについて考えていきたいと思います。
このような問題提起をしたのには2つの理由があります。
まず、一つ目の理由として、自転車は自動車に比べて、誰でも気軽に乗ることができ、操作が容易で、軽量であるという特性があり、この特性が損害の算定にあたってどのような考慮がされているのか、ということです。つまり、自転車に乗る際には、もちろん自動車に乗る際に必要な免許も必要ありませんし、幼児や小学生など運転の操作を覚えれば誰でも乗れますし、自転車は自動車に比べて軽量であるという特性があるので、自転車事故による被害も自動車事故に比べて少なくて済むのではないかということから、自動車と同じように赤本や青本を基準として損害を算定してよいのかということです。
二つ目の理由としては、自動車事故と異なり、自転車事故の場合には加害者の資力が問題となる場合が多いことから、この賠償資力の問題が損害の算定にあたってどのような影響を与えているのか、ということです。つまり、自転車事故では、自動車事故と異なり、自動車損害賠償保障法(いわゆる自賠法です。)の適用がないため自賠責保険が利用できませんし、また、任意保険も普及していませんし、未成年者も自転車に乗り自転車事故を起こせばその責任を負うことがあることから、自動車と同じように赤本や青本を基準として損害を算定してよいのかということです。
3 裁判例
そこで、実際に自転車事故における損害の算定が問題となった裁判例をピックアップしてみましょう。
まず、大阪地判平成6年2月18日では、自転車と歩行者が衝突して歩行者が死亡した事故において、加害者側から、自転車は自動車に比べると速度が遅いことを理由に本件事故による死亡の結果に基づく損害が相当因果関係の範囲内にあるとはいえない旨の主張がされました。しかし、裁判所は、
「自転車は軽量であって、自動車等に比べると一般的には速度が遅いことは被告の主張のとおりであるが、その運行の形態はさまざまであって、場合によっては危険な場合もあり、死亡事故はこれまでも多々発生していて、そのような事態も、通常人ならば当然予測しうるものであるから、死亡の結果に基づく損害も、相当因果関係の範囲内である」
と判断しました。
次に、東京地判平成6年10月18日では、自転車同士が衝突して被害者が左目を失明するなどした事故において、加害者側から、自転車事故の場合には自動車事故の基準によるべきではないという旨の主張がされました。しかし、裁判所は、
「同程度に傷害や後遺障害を受けた者については、同程度の慰謝料が認められるべきである」
と判断しました。
このように、裁判例上では、自転車事故で被害者が死亡した場合に、その死亡結果に対する損害も加害者が負う損害賠償の範囲に入ると判断され.自動車事故と同じように傷害慰謝料や後遺障害慰謝料の損害の算定をすべきと判断される傾向にあり、自動車事故と変わらない損害の算定がされているように思います。
4 最後に
今まで見てきたように、自転車事故でも自動車事故でも、被害者に怪我を負わせたり、場合によっては死に至らしめたりすることがあるという点では変わりはありません。そして、被害者が受けた苦痛や悲しみも、被害者にとっては自転車事故と自動車事故で変わることはありません。自動車事故だけなく、自転車事故も増加してきている中で、自動車を運転する方が交通法規・ルールを遵守するというだけでなく、自転車に乗る方も交通法規・ルールを遵守するということも重要であるといえるでしょう。