1、はじめに

 こんにちは、弁護士の辻です。

 物損事故で、被害者が請求できる賠償に、代車費用というものがあります。

 代車費用とは、「車両が損傷して、その修理や買替えのために車両を使用できなかった場合に、有償で他の車両を賃借するのに要した費用」のことを言います。

 ですが、代車を使ったとしても、その費用が必ず全額出るわけではありません。
 代車の必要性、代車のグレード、代車の期間などによって、認められない代車費用というのも出てきます。

 今日は、この中の代車の必要性についてお話しします。

2、代車の必要性

 代車費用が事故と相当因果関係のある損害と認められるためには、代車を使用する必要性のあることが要件の一つとなっていると言われています。裁判例においても、

「被害者側にも損害の発生の拡大を防ぐべき信義則上の義務があるから、バス、地下鉄などの公共交通機関や必要に応じてタクシーを利用することにより、営業上又は日常生活上、特段の支障が生じない場合には、これらの交通機関を利用すべきものであって、代車を使用した費用を損害と認めることはできない」(東京地判平成13年8月30日交民34巻4号1141頁)

とされています。

 この代車の必要性の要件について、営業用車両であれば原則として代車の必要性が認められるといわれていますが、自家用車については、専らレジャーなどを目的とする場合を除いて、代車の必要性が認められることがあるという形で限定的に認められるにとどまるといわれています。

 では、自家用車である被害車両を、レジャー、趣味の用に供している場合には、代車の必要性が否定されているのか、自家用車である被害車両をレジャー、趣味に用いていたと認定した裁判例をいくつかご紹介します。

(1)週末のカーレース等のために被害車両を利用していた例(否定例)

※東京地方裁判所平成21年10月20日判決自保ジャーナル・第1819号

 原告は、原告車両を趣味のカーレース等のために利用していたところ、事故にあったため、毎週土曜日、日曜日に楽しみにしていたカーレースに原告車を利用して参加することができなかったという事案でした。

 この裁判例は、代車の必要性を否定しましたが、同裁判例は、他にも「現実に代車を使用して何らかの支出をした形跡はなく、原告には、通常使用できる車両が他にもあったこと、原告は代車としての提供は認めないものの、修理期間中の相当日数はB会社から車両の提供を受け、これを使用した(特にポルシェ)こと」などを併せて指摘して、代車の必要性を否定しています。

(2)週2、3回ゴルフに行くときなどに使用するため被害車両を利用していた例(肯定例)

※東京地方裁判所昭和63年10月28日交通民集21巻5号1118頁

 原告は原告車を1週間に2、3回ゴルフに行くときなどに使用しており、原告は本件事故により原告車を使用できなかったため昭和62年2月19日から同年3月31日まで(41日間)ベンツを借り、その後、原告は本件事故から約1月後に自動車(BMW)を購入しそれ以後はその自動車(BMW)を使用した事案でした。

 この裁判例は、代車の必要性について特に言及することなく、原告が1月間のうち実際に自動車を使用すると認められる日数を基準として、12日分の代車費用を認めました。

3、まとめ

 上記二つの裁判例を見ると、裁判所は、自家用車をレジャーのために用いていたからという一事をもって、代車費用を否定しているとは言い難いでしょう。

 確かに、被害車両をレジャー、趣味の用に供していることは、代車の必要性を否定する方向に働く要素だと言えますが、それだけで必ず代車の必要性がないとは言えません。例えば、事故前から被害車両をレジャーに使用する予定があったのに、事故の結果、被害車両を使用することができなくなったなどの特段の支障が生じる場合には、代車の必要性を認める余地はあります。

 事故に遭ったせいで、本当に代車が必要になったのに、保険会社が代車費用を支払ってくれないときなどは、私たちに相談してみてください。