1 はじめに

 交通事故証明書には事故状況の詳細は記載されないため、例えば、加害者・被害者間で過失割合についての主張が大きく食い違っている場合や、弁護士費用特約が適用されるか否か(歩行中の事故か若しくは乗車中の事故か)を判断するに当たり、交通事故証明書だけではその判断のための資料として十分とは言えない場合に、刑事事件記録の取り寄せが必要となることがあります。

 刑事事件記録の中には、事故直後の現場検証の結果を記載した「実況見分調書」という書面があり、そこには交通事故現場の道路状況や事故当日の天候、関係車両の位置関係、タイヤ痕の所在地等、当該交通事故の詳細が記載されており、この書面が過失割合の算定等の有力な資料となりうるからです。

 この刑事事件記録の取り寄せ方法については、捜査や刑事裁判の進行の度合いによって変わってくることになります。

2 刑事事件の進行段階に応じた刑事事件記録の取り寄せ方法

⑴ 捜査中の場合

 捜査段階で作成される書類は、捜査関係者の名誉・プライバシー等の観点から、原則として公開されません。したがって、担当捜査官が、事実上の便宜として口頭で説明をしてくれるような場合を除き、閲覧・謄写をすることは困難であると考えられます。

⑵ 起訴され、裁判所に事件が係属中の場合

 この場合、被害者やその直系親族等は、第1回公判期日後~事件終結までの間、当該事件が係属する裁判所に対して、記録の閲覧・謄写の申出をすることができ、裁判所は、相当でないと認める場合を除き、閲覧・謄写をさせることとなっています。

⑶ 当該事件に関する刑事裁判が確定している場合

 事件が既に確定している場合、その記録は公開されていることから、誰でも、事件記録を閲覧することができます。

 また、これとは別に、事件について委任を受けた弁護士が、弁護士会照会(所属する弁護士会を通じて、公務所や公私の団体に対して必要な事項の報告を求めることができる制度。)によって、刑事事件記録を閲覧・謄写することもできます。

⑷ 不起訴処分になっている場合

 この場合、裁判が確定した場合と異なり、記録は公開されないことから、自由な閲覧・謄写はできないのが原則ですが、例外的に、実況見分調書だけは、閲覧・謄写が認められています。この場合にも、事件について委任を受けた弁護士は、弁護士会照会によって、実況見分調書を閲覧・謄写することができます。

 なお、不起訴の場合に、弁護士会照会を経ることなく、被害者やその親族等が直接実況見分調書を閲覧・謄写することができるのか、それとも弁護士会照会を経る必要があるのかは、各検察庁によって取扱いが異なります。また、被害者等が謄写するにしても、各検察庁によって謄写の設備が整っているか否かが異なりますので、これらの点については、事前に当該事件を管轄する検察庁に問い合わせておいた方がよいと思われます。

3 最後に

 以上より、刑事事件の進行度合いによって記録の取り寄せ方法が異なること、及び、記録の取り寄せについては弁護士会照会という有力な方法があるということがお分かり頂けたかと思います。交通事故に関する問題を弁護士に依頼するメリットは多々ありますが、弁護士には弁護士会照会があるということも、メリットの一つと言えるでしょう。

 なお、弁護会照会をするには費用(額は各弁護士会によって異なります。)がかかりますが、弁護士費用補償特約に加入している場合には、弁護士会照会費用も当該特約によって補償されることになります。