4.裁判例①「前方車両が発進直後に急停車した事案」

 名古屋地裁平成3年3月27日判決は、「本件事故は、被追突車が青信号に従って車両を発進させた直後に理由もなく突如として急ブレーキをかけて同車両を停車させたために発生したもの」と認定し、原告(被追突車)側の一方的過失を認定した事案です。
 具体的な事故態様として、同裁判例が認定するところを要約すると、

①「被追突車と追突車は、片側2車線の中央より車線上において、追突車の前方2メートルの地点に被追突車が、被追突車の前方にも1台の車両(以下「先頭車両」という。)が、赤信号に従ってそれぞれ停車していた。本件道路の左側車線を走行し、本件交差点を左折して太閤通方面に進行する車両はなかった。」

②「その後、対面信号が青信号に変わったため、先頭車両が発進して本件交差点を右折、これにひき続き被追突車も発進した。」

③「追突車が被追突車に続いて車を発進させたところ、被追突車が突如として急ブレーキをかけて停車した。」

④「追突車は即座にハンドルを左に切るとともにブレーキを踏んだが間に合わず、追突車の前バンパー右角と被追突車の後バンパー右側部分が衝突した。」

というものです。
 なお、同裁判例では、被追突車は自身が停車中に追突された旨を主張していたようですが、同裁判例は、被追突車の証言について以下のとおり判示しています。

被追突車の乗員A:「私の体は前方に倒れ、その後、後方に倒れました」

被追突車の乗員B:「座席のシートを倒していましたが、体が浮き上がって、頭が前にのめり込んで、ヘッドレストへ頭をぶつけました。」

裁判所:ABの証言の内容は慣性の法則と正反対であり、むしろ前方に進行しつつあった被追突車が急ブレーキで停車することにより生じる同車両の乗員の体の動きに一致するもの・・・停車中に追突を受けたとするABの各供述は措信しがたい。

4.裁判例②「被追突車の急制動につき、動物を発見したためとの主張を排斥した上で、追突車80の過失を認定した事案」

 仙台地裁平成18年12月6日判決も、その認定事実を要約すると、追突車が、原告車両に後続して本件交差点手前で信号待ちをし、信号が青に変わったため発進した直後に、急停止した原告車両に追突したという事案です。
 被追突車は急ブレーキをかけた理由について「進路上に猫のような動物がうずくまっているのを発見したため」と主張していたものの、

「客観的に裏付ける証拠はない・・・原告が急制動をかけたのは、発進直後のさほど速度が上がっていたとは考えられない状態でのことであるのであるから、原告としても、前方を十分に注視していれば、障害物の存否をより的確に判断して、急制動を回避することが可能だったと考えられるのであるから、本件事故の発生につき過失があったことは否定できない」

と判示しています。
 他方で、追突車については、

「発進から衝突するまでの間に両車両ともそれほど速度が上がるに至っていたとは考えられない・・・追突車としては、被追突車の動静を注視していれば本件事故を回避することができたものと考えられ、したがって、追突車に本件事故の発生に過失があったものというべき」

と判示し、その過失割合を被追突車2、追突車8と認定しています。
 裁判例②では、追突車側の「被追突車が挑発的な急発進をした、最初から急ブレーキを踏むつもりであった」との主張について、

「追突車は、本件交差点で信号待ちをしている際、被追突車の約2.2㍍後方に停止していた。
発進後、追突車は、発進して約16.4㍍走行した地点で、前方約4.0㍍の地点を走行する被追突車が減速するのを認め、そこから約5.5㍍進んだ地点で危険を感じ、ブレーキを掛けたものの間に合わず、さらに約4.2㍍進行して被追突車に追突した。」

との事故態様や、

「被追突車が速度を急速に上げたのであれば、後続する追突車との車間距離が開くものと考えられるところ、追突車の陳述書によっても、被追突車を急速に追い上げたような記載はない。」

との点等から、被追突車が最初から急ブレーキを踏むつもりで発進したとの事実を認めることはできないとしています。

5.まとめ

 急ブレーキをかけたとの事実のみでは、被追突車側の一方的過失と必ずしも認定されるわけではありません。
 裁判例①も、被追突車についていわゆる「当たり屋」などと明示的に認定したものではありませんが、追突事故で、被追突車の一方的過失とまで認定されるには、具体的な事故状況等から、事故の原因が被追突車側にのみ存するといえるような事情が求められるでしょう。