1 後遺障害逸失利益における原則論
以前に、交通事故によって後遺障害を負った人に認められる、損害項目としての逸失利益が、事故後に被害者に新たに生じた偶然の事情により減額されることは原則としてない、という最高裁判所の判断についてご説明しました(最判平成8年4月25日民集50巻5号1221頁、本サイト内「交通事故」2015年9月9日付記事をご参照ください。)。
しかし、この判例が出た後も、その理由が、将来の介護費用にも当てはまるのかどうかということが疑問点として残されているとの指摘がなされていました。
2 交通事故の後遺障害により生じる将来の介護費用(原則)
交通事故により、被害者が重度の後遺障害を負い、介護を要する状態となった場合、症状固定後も介護の必要は続くのであり、その介護費用は被害者が亡くなるまで生じ続けることが予想されます。もっとも、事故に近接した賠償時点において、その被害者がいつまで生き続けるか具体的に予測することはできません。そこで、このような費用は、便宜的に平均余命まで発生し続けるものとして、損害として計算されるのが通例です。
3 判例
では、事故後に平均余命を待たず、被害者が別の理由で亡くなった場合、将来の介護費用も逸失利益と同様、減額されることなく支払われることになるのでしょうか。この点が問題となったのが、最判平成11年12月20日民集53巻9号2038頁です。
原審は、減額されないという判断を示しました。その理由として原審は、
①交通事故により被害者に生じた損害は1個であること、
②判決に基づいて将来の介護費用が賠償として支払われた後、被害者が亡くなったからといって加害者がその払い戻しを求めることは許されないと考えるべきこと、
③減額されるとの考えをとった場合、被害者が亡くなる時期が、裁判が終わる前と終わった後との場合で変わることになり、公平でないこと、の3点を挙げました。
これに対し、最高裁は、将来の介護費用については被害者が死亡した場合には、原則として請求できないとの判断を示しました。
その理由として最高裁は、次の3点を示しています。