1 死亡による損害賠償

 交通事故によって被害者が死亡した場合、様々な損害が発生すると考えられますが、大きな損害の1つとして、逸失利益というものがあります。
 これは、事故に遭わなければ将来得られていたであろう収入についての損害の賠償を請求するものです。
 この逸失利益を請求するにあたって、被害者が支出するはずであった生活費を差し引かなくてもよいのかが問題となります。

2 死亡したときの被害者の生活費

(1) なぜ、生活費を差し引く必要があるのでしょうか?
 一般的に、損害賠償によって認められるのは、事故がなければあったであろう状態の回復であり、事故をきっかけに利益を得ることは認められていません。
 そのため、事故によって損害を被ったのと同一の原因によって利益を得たという場合、その分を賠償額から差し引くこととされています。

(2) これを被害者が死亡した場合の逸失利益の場合について見てみると、実際に収入を得る場合には各種生活費を支出しているはずですが、被害者が死亡すると、被害者自身について生活費を支出することがなくなります。
 そこで、逸失利益の賠償を受けるにあたって、被害者自身の生活費を支払わなくて済んだことが利益に当たるといえますので、被害者の生活費を差し引くこととされているのです。

(3) 計算方法としては、本来であれば具体的な根拠に基づいて、支出するはずであった生活費の額を確定するべきなのでしょうが、現実には認定が難しいので、性別や被扶養者の有無等によって、「○%を控除する」という方法がとられています。

3 生活費控除に関するその他の問題

 では、後遺症を残した人が事故とは無関係の原因で死亡した場合、やはり逸失利益の額の計算にあたって、生活費の控除が問題となるのでしょうか。
 この点について、判例は控除を否定しています(最高裁平成8年5月31日判決)。
 その他、生活費の控除の問題は、死亡の場合だけでなく重度の後遺症が残った場合にも問題となります。
 重大な事故に遭われて、加害者からの適正な賠償が受けられるのかご不安な場合、一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

弁護士 福留 謙悟