1 車両保険

 車両保険は、自分の車が事故に遭って損傷したときに修理ができるようにするもので、相手方に賠償する余裕がないような場合や、事故の発生について自分にも落ち度があるような場合に、そのような事情に左右されずに損害を填補できるというメリットがあります。
 しかし他方で、車両保険を使用すると、基本的に等級が下がって翌年の保険料が高くなるというデメリットがあります。

2 保険料差額

 このように、車両保険を使って車両の修理を行ったとすると、被害者は、車両保険を使わなかった場合と比較して保険料の増額する分、経済的負担が大きくなります。
 そして、このような負担は、事故に遭わなければ生じなかったものといえます。
 そこで、この保険料の差額を加害者に対して損害賠償として請求できないかが問題となります。

3 相当因果関係

 ところで、交通事故のような不法行為によって生じた損害の賠償を請求するためには、違法な行為と損害の間に相当因果関係が必要とされています。そして、相当因果関係があるといえるためには、単に、違法な行為がなければ損害が発生しなかったというだけでは足りず、その行為から通常であれば発生するというような損害でなければなりません。

4 相当といえるのか?

 被害者は、車両の修理費用等が生じたのであれば、加害者に対して直接修理費用等を請求することが原則であって、それによって被害者は修理をすることができます。そのような中で、車両保険を使うかどうかは被害者の自由です。

 したがって、加害者からみると、そのような被害者の選択や保険加入の有無によって自分が負担すべき賠償の額が大きくなることには応じがたいところでしょう。
 そのため、基本的にこのような保険料差額の請求は認められていません。

5 まとめ

 以上のように、車両保険を使った場合の保険料差額を加害者に請求できないとすると、ケースに応じて、保険料増額のデメリットと、車両保険を使って早期に損害を填補することや過失分を填補することのメリットを比較して、車両保険を使用するかどうか判断すべきであるといえます。

弁護士 福留 謙悟