医療過誤を生じさせた医師は、これまでにご紹介した民事責任や刑事責任の他に行政処分を受ける場合もあります。
 行政処分とは、行政庁の処分その他公権力の行使をいい、例えば、厚生労働大臣による医師免許取消しなどがこれに当たります。

 医師に対する行政処分には、

① 戒告
② 3年以内の医業の停止
③ 免許の取り消し

 があります(医師法7条2項)。
 そして、これらの処分を受けるのは、

① 医師が同法4条各号(罰金以上の刑に処せられた者など)のいずれかに該当すること 又は
② 医師としての品位を損するような行為があったこと

です。

 医療過誤により業務上過失致死傷罪で有罪判決を受けた場合、「罰金以上の刑に処せられた者」として、行政処分の対象となります。

 実際の運用上、刑事事件で有罪判決が確定するのを待って行政処分を行うのが通例となっているようです。その理由は、専門性の高さゆえに事実認定が難しいことなどにあります(日本医師会 医療事故における責任問題検討委員会「医療事故による死亡に対する責任のあり方について」平成22年3月、13頁)。そして、患者からの苦情申立てによっても処分の判断のための調査をすべきか否か検討されますが、実際はこれにより行政調査が行われ、行政処分に至ることは稀なようです(宇賀克也「医療事故の原因究明・再発防止と行政処分―行政法的視点からの検討」上記「医療事故による死亡に対する責任のあり方について」添付資料)。

 しかし、条文上刑事処分があったことは必須要件ではありません。また、刑事処分と行政処分では目的が異なりますし、行政処分には柔軟で臨機応変な対応が求められます。

 この点に関する動きとして、平成14年12月13日、医道審議会医道分科会は、上記の「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」において、刑事事件とならなかった医療過誤についても、明白な注意義務違反が認められる場合などについては、処分の対象として取り扱うことを提言しました(厚生労働省ホームページ:http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/12/s1213-6.html)。

 そして、この考え方に基づき、実際東京慈恵会医科大学青戸病院の死亡事件において業務停止処分、元富士見産婦人科病院の事件において免許取消処分がなされています(宇賀克也「No.1323ジュリスト 医療安全に関する行政処分の現状」2006.11.15、42頁)。

 医師に対する上記行政処分は、医道審議会の意見を聞いた上で、厚生労働大臣が決定します(同法7条4項、2項)。

 平成18年の医師法の改正によって、厚生労働大臣には罰則の不利益を背景とした調査権限が与えられています(同法7条の3)。

 では、処分を科すか、またどの程度の処分を科すかについては、どのように判断されるのでしょうか。「罰金以上の刑に処せられた者」に関する事案で、最高裁(最判昭和63・7・1)は、

・行為の種類、性質、違法性の程度、動機、目的、影響のほか、当該医師の性格、処分歴、反省の程度等諸般の事情を考慮すべき

と判断しています。

 また、医道審議会医道分科会は、医療過誤事件における行政処分の考え方について、

・行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、明らかな過失による医療過誤や繰り返し行われた過失など、医師として通常求められる注意義務が欠けている場合は、重めの処分とする。

・病院側の管理体制、医療体制、他の医療従事者における注意義務の程度や生涯学習に努めていたかなどの事項も考慮する

としています(上記「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」)。

 なお、医師は、免許取消し処分を受けた場合も、一定の場合には再免許が与えられます(同法7条3項)。

 また、平成18年の医師法の改正で、厚生労働大臣は戒告・医業停止処分を受けた医師や、再免許を受けようとする者に対し、再教育研修を受けることを命じることができるようになりました(同法7条の2)。過去の行為に対する刑の執行により終了する刑事責任とは異なり、積極的に医療の安全を確保する役割も担う行政処分の特徴が表れています。

弁護士 池田実佐子