(1)腹部大動脈瘤とは何か。

 大動脈瘤とは、大動脈に発生する瘤状に拡張した病態を指す。大動脈の最大径が35mm以上となれば、大動脈瘤と診断される。
 瘤の壁構築による分類として、①真性大動脈瘤、②仮性大動脈瘤、③解離性大動脈瘤に分類され、形態から①嚢状大動脈瘤、②紡錘状大動脈瘤に分類される。
 腹部大動脈瘤とは、大動脈の腹部通過部分に生じる動脈瘤のことである。
 弱くなった動脈壁に生じることが多い。
 破裂すると、大量出血のおそれがあるので、動脈瘤の大きさにもよるが、迅速な治療が望まれる。

(2)大動脈瘤の原因

① 動脈硬化
② 炎症(大動脈炎や細菌感染)
③ 外傷
④ 特発性嚢状中膜壊死
など。

(3)腹部大動脈瘤の診断

① 腹部のX線写真
② 大動脈造影
③ MRI検査
④ CT検査
など。

(4)腹部大動脈瘤の治療方法

① 瘤横径が5cm以下であれば、経過観察をしてもよい。
② 投薬治療としては、降圧剤、脂質異常症例薬の投薬。
③ 瘤横径が6cm以上のものや、臓器圧迫症状を呈する場合には積極的な手術適応となる。
④ 大動脈瘤切除
⑤ 人工血液置換術
⑥ ステントグラフト内挿術

(5)裁判例

①東京地判平成19年12月17日

 患者が弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術を受けたが、MRSA感染に基づく敗血性ショックにより死亡した事例。
 裁判所は、感染症の治療を開始の要否判断につき、浸出液のグラム染色を行うべき注意義務違反した過失が担当医師に認められるが、患者の死亡結果との間に因果関係が認められないとして医療機関側の責任を否定した。

②名古屋高判平成19年10月25日

 胸部大動脈瘤との診断を受けた患者が人工的な代用血管であるステントグラフトを血管内に留置する井上式ステントグラフト内挿入術を受けた際、左腸骨動脈が破損して出血性ショックを起こして死亡した事例。
 裁判所は、ステントグラフト挿入術が未だ臨床治験の段階にとどまっていたもので未完成の治療方法である一方で、患者の動脈壁が脆弱化している可能性が高く、破損すると危険な状態に陥る可能性があるので慎重に操作すべき注意義務を負いながらもこれを怠り操作したことに着目し、医師の過失を肯定した。

弁護士 藤田 大輔