現代の医療は高度化し、患者の治療に当たっては、専門分野や医療機関における地位、役割等を異にする複数の医療従事者が携わっています。このような、複数の医療関係者により協同して行われる治療を「チーム医療」といいます。
 では、チーム医療により医療過誤が起きた場合、誰が責任を負うのでしょうか。

 この点、刑事事件において、チーム医療の最高責任者である診療科長の過失責任について判断した最高裁判例(最判平成17・11・15)があります。

 この事例は、右顎下部に発生した悪性腫瘍である滑膜肉腫の患者に抗がん剤(硫酸ビンクリスチン)を過剰に投与し、その結果多臓器不全により死亡したというものです。
 当該医療機関の耳鼻咽喉科では、指導医(本件では医師9年目)と若手医師(本件では医師5年目)に研修医(本件では医師2年目)を加えた3人で医療チームを組み、主治医が中心となって治療方針を立案し、指導医が了承した後、最終決定権を有する科長が最終的な判断をすることとなっていました。
 なお、研修医は前期研修医(医師1~2年目)と後期研修医(医師3~5年目)が存在し、後期研修医は経験及び能力を有する指導医の下臨床研修を行います。

 最高裁は、科長について、

・自らも本件治療の適否等を検討し、抗がん剤の投与計画案の内容についても踏み込んで具体的に検討し、誤りがあれば是正すべき注意義務があったのに、これを怠った
また、
・治療による副作用についても自ら研究し、副作用に的確に対応できるように事前に指導するとともに、副作用が発現した場合には直ちに報告するよう具体的に指示すべき注意義務があったのにこれを怠った

として過失責任を認めました。

 なお、主治医及び指導医についても一審・控訴審で過失責任が肯定されています。

 この事案は、民事責任の追及もされており、それぞれの過失責任について以下のような判断がされています(さいたま地判平成16・3・24)。

主治医について

 主治医として、身体への侵襲の大きい抗がん剤の使用の危険性に対する認識、及び、その際に要求される注意を著しく欠き、極めて安易に誤った治療計画を立案・実行したのであるから、過失がある。
 治療計画につき上級医のチェックが不十分であったからといって、医師としての注意義務は減免されない。

指導医について

 患者を担当する医師として、他の医師に比して格段に重い注意義務を負い、かつ単なる監督にとどまらず、主治医と並んで患者を観察し、主体的に治療を行う義務がある。これを怠った以上過失がある。

診療科長

 診療業務の最高責任者として、患者の生命・身体に対する危険を防止すべく、治療の具体的内容にわたり、間違いのないように監督する義務を負っていた。
 本件治療が生命に危険を及ぼしかねない抗がん剤治療であることを認識していた上、科長としての権原に基づき治療をコントロールし得たのであるから、その危険性等につき十分に理解、確認していれば過剰投与を防ぎ、適切な処置が行われた可能性があるから、過失がある。

研修医

 本件医療機関耳鼻咽喉科における研修医は、先輩医師の指導を実行していく過程で経験を積むことによって、必要な知識を養う時期にある者で、医師として治療方針の決定に主体的に参画するという役割は期待されていなかったとして、過失責任を否定。

 このように、治療計画を立案・実施した主治医はもちろん、指導医及び診療科長についてもその地位に応じ、指導医については監督義務のみならず主体的に治療を行う義務、診療科長に対しては監督義務が認められています。

 では、医師と看護師間の連携にミスがあった場合はどうでしょうか。

 医師が、蕁麻疹の患者の痒みを軽減するため塩化カルシウム注射液を静脈注射するよう看護師Aに指示し、それを実施した准看護師Bが誤って塩化カリウム製剤を原液のまま静脈注射し、これにより急性心停止による低酸素脳症のため患者に重大な後遺障害が残った事案(京都地判平成17・7・12)で、裁判所は、

医師について

 医師は看護師に注射すべき薬剤の種類、注射量、注射方法、速度等について誤解が生じないよう的確に指示することはもちろん、薬剤の種類や危険性によっては自ら注射したり、その場に立ち会うなどして事故発生を防ぐ注意義務を負っている。

准看護師Bについて

 准看護師は、薬剤の種類、量、投与方法等を十分に確認し投与することはもちろん、医師の指示内容に不明な点や疑問点等があれば、医師や薬剤師に再度確認する等して誤注射を防ぐべき注意義務があった。

として、双方の過失責任を認めました。

 これによると、医師は看護師に対し的確な指示をしたのみでは足りず、他方、看護師も単に指示に従うだけでは足りない(本件ではそもそも指示自体に反していましたが)ことが確認されています。

 このような治療行為の他に、患者に対する説明が不十分であった場合に、チーム医療の総責任者も責任を負うのか、という問題もあります。この点については、総責任者が患者に対する説明についてどのような義務を負うか、どのような場合に責任を負うのかを判断した最高裁があります(最判平成20・4・24)。

 この判例については、後日のブログでご紹介します。

弁護士 池田実佐子