1 歯科医療における説明の重要性

「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない」
(医療法1条の4第2項)

と規定されています。このように、医師や歯科医師には、法律上説明義務が規定されています。

 ただ、歯科医療においては、一般の医療行為の場合にも増して、説明が重要とされています。その理由としては、歯科医療は、一般の医療行為に比して①適応のある治療法や治療に用いられている補綴物等の材質が多岐にのぼること②自由診療の比率が高く外貌への影響も大きいこと③救命等の緊急性を理由に説明や同意を得るための時間的余裕がない場合は稀であること④抜歯や歯の削合など不可逆的な治療が行うこと等が挙げられます。

2 そこで、以下、二つの裁判例を見ていきます。

(1)①東京地裁平成12・12・25判タ1077・250

「一般に、医療上の治療行為を行うについて、それが患者の身体に対する侵襲行為に該当する場合には、原則として、医師又は歯科医師は、患者に対し右治療行為の内容及びこれに伴う危険性等について事前に説明をした上、患者の同意を得るべき義務を負っているというべきである。そして、これを患者の立場からみると、患者は、原則として、自己の受けるべき治療について一定の決定権を有しているということができる。・・顎関節症は、多くの因子が相互に複雑に関連する整形外科的な要素の強い疾患であり、それに応じて、治療方法も、・・・多種多様なものが存在している。そして、一般に顎関節症の場合は、患者の生命・身体の安全の確保という点からすると、緊急性の低いものが大半ということができるから、これらの点を踏まえ、歯科学や口腔外科学においては、保存可逆的な治療か常道であり、これらを種々試みても効果がない場合に、顎関節症の症状やその原因を慎重に検討しつつ、必要最小限の侵襲的不可逆的な治療方法を選択するのが妥当とされているものと認められる。・・(中略)・・・顎関節症の治療においては、歯科医師において歯牙の削合を伴う補綴治療が妥当と判断する場合であっても、同治療は一度実施してしまえば復元することができない不可逆的で侵襲の高いものであるから、歯科医師は、前記のようなあり得る複数の治療方法との対比の上で、実施を考えている補綴治療の必要性や緊急性、その内容、これによってもたらされる結果、補綴治療の利害得失や危険性等について、患者に対し具体的な説明を行い、もって患者においてその補綴治療の実施時期や他の治療方法との優先関係等を含め、補綴治療を受けるか否かについて適切な判断ができるように措置する義務を負うというべきである。そして、その説明は、右の目的に照らし、一般に専門的知識に乏しい患者において十分に内容を理解し選択の判断をなし得る程度に平易かつ具体的なものでなければならないというべきである。」(東京地裁平成12・12・25判タ1077・250)

 この判例は、緊急性が低いこと、保存可逆的な治療が常道であること、顎関節症の本件治療が不可逆的で侵襲性の高いものであることから、説明義務を具体的にするように要求しています。

(2)②山口地方裁判所平成17・12・22判タ1223・240

「被告が上記説明義務を尽くしていたとすれば,原告は本件処置をすることに同意していなかったと認められるから,被告は原告に対し,本件処置によって原告が被ったすべての損害を賠償する義務がある。」(山口地方裁判所平成17・12・22判タ1223・240)

 この判例は、説明義務違反から、すべての損害賠償義務を認めている点がポイントです。通常、説明義務違反から認められる損害は、説明義務違反による慰謝料請求権のみ認められます。しかし、説明がされていれば、治療に同意しなかったという関係が認められる場合には、治療に伴う損害をすべて認められることになります。

3 最後に

 以上のように、裁判例は、事前の説明は、自己決定権の重要な判断のために必要と考えられています。したがって、説明義務違反の内容が患者の自己決定権の判断(治療を受けるか否かの判断)に影響する場合には、治療行為に伴う損害が認められます。また、①適応のある治療法等が多岐にのぼること②救命等の緊急性を理由に説明や同意を得るための時間的余裕がない場合は稀であること③不可逆的な治療であることから、歯科医療においては、一般の医療行為の場合にも比して、より高度の説明義務が認められています。