(1)心筋梗塞とは何か。

 心筋梗塞とは、心臓を養う血管である冠動脈の血流が減少することによち、心筋の壊死をきたす病態である。
 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)と非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)とに分類される。

(2)心筋梗塞の症状

症状は冠動脈の閉塞の程度により異なる。
① 呼吸困難
② 悪心
③ 安静でも20分以上継続する胸痛、
など。

(3)心筋梗塞の診断方法

① 聴診(Ⅲ音とⅣ音を聴取する。)
② 心電図でSTの上昇または低下、異常Q波、冠性T波の有無を確認する。
③ 血液生化学検査で、心筋逸脱酵素(CPK、CK-MB、トロポニンT・I)上昇の有無を確認する。
④ 心エコー検査

(4)心筋梗塞の治療

投薬両方(特に初期段階で有効)

① 塩酸モルヒネの投与
② 酸素の投与
③ 硝酸薬の投与
④ アスピリンの投与

再灌流法

① 経皮的冠動脈インターベーション(PCI)
② 冠動脈バイパス術(CABG)
③ 血栓溶解療法
など。

(5)裁判例

① 大阪高判平成2年4月27日判時1391号147頁

 患者には、初診時に心筋梗塞を疑わせるに十分な症状があったにもかかわらず、医師が簡単な診察をしたのみで直ちに施行すべき諸検査を行わなかったために患者が死亡したとして、原告が被告に対し債務不履行責任を追及した事例。
 誤診類型の医療過誤事件で原告が勝訴した例は比較的少なく、心筋梗塞は死亡率の高い疾病であることに着目している点で、参考になる裁判例であるといえる。

 本裁判例は以下のように述べて、医師の過失を認定した。

「診療契約に基づく医師(病院)の債務である診療義務とは、医師がその専門的知識・経験を通じて、その当時における医療水準に照らし患者の病的症状の医学的解明をし、その症状及び以後の変化に応じて適切かつ充分な治療行為をなすべき義務をいうと解すべきである。したがって、診断を誤った場合は、一般的医療水準から考えて右誤診に至ることが当然であるようなときを除き、債務の履行が不完全であったということができる。

 本件においては、被控訴人の履行補助者である増田医師は、心筋梗塞等の心疾患を疑わず、単に肝臓疾患とのみ診断したのであるから、診断を誤ったことは明らかであり、急な発症、上腹部痛ないし同部の膨満感、全身の倦怠感、呼吸苦、吐き気など、心筋梗塞等の心疾患の存在を疑わしめる一方、想定しうる肝臓疾患では説明しきれない症状があった(〈証拠〉参照)のに、右誤診に至ったということができ、債務の履行が不完全であったというべきである。

 そして、前記〈証拠〉によれば、心筋梗塞は、冠状動脈流血量が減少し、その支配領域の心筋が壊死することによってもたらされる症候群で、極めて死亡率の高く、しかも、発症後一週間、特に二四時間以内に死亡することが多いという危険な疾患であるから、心筋梗塞と診断されたならば、早急に適切な対策、すなわち、塩酸モルヒネの注射、絶対安静、血管の確保、症状の厳重な監視、心電図のモニター監視、抗不整脈剤、亜硝酸剤の投与、除細動装置の準備、酸素の投与など(もし、当日の被控訴人病院の診療態制が不十分であると判断した場合は、CCUのある施設へ転送する)を取らなければならず、したがって、緊急医療における実際の鑑別診断に当たっては、比較的に可能性が小さくても優先的にその該樹有無が検討されなければならないことが認められる。しかるところ、本件においては、前記説示のとおり、急な発症、上腹部痛ないし同部の膨満感、全身の倦怠感、呼吸苦、吐き気など、心筋梗塞等の心疾患の存在を疑わしめる一方、想定しうる肝臓疾患では説明しきれない症状があったのであるから、右症状に敏感に対応して、少なくとも、心筋梗塞等の心疾患の可能性を検討すべきであったし、さらに確度の高い診断をするのに必要な検査をすべきであった(心電図検査、血液検査等が直ちに可能であったことは増田証人、深水証人も供述するところである。)。したがって、増田医師の誤診がやむをえなかった事情によるとか、過失がなかったとまでいうことはできない(〈証拠〉も右の点を認めさせるには十分でない。)。

 そうすると、清文は、右債務不履行により死亡するに至ったということができ、〈証拠〉によれば、心筋梗塞との診断がつけば、早急に前記のような適切な対策を取ることによって清文を救命しうる可能性が大きかったことが認められるから、被控訴人病院は、これにより同人に生じた損害を賠償する責任がある。」

② 東京地判平成17年3月30日

 患者が、被告が開設する病院を受診した帰宅途中に倒れ救急搬送されたが急性心筋梗塞で死亡した事例。
 裁判所は、医師による心電図の異常所見の見落としや不適切な診断により適切な検査や治療を受けさせるべき義務を怠ったとして被告の不法行為責任を認めた事例。

③ 横浜地判平成21年6月18日

 心臓手術後に患者が死亡した事例。
 裁判所は、心臓手術中に心筋保護液を注入する時期が遅れたために心筋の保護が不十分となって心筋梗塞が起こり、患者が死亡したと認定し、医師らの過失を認めて被告の責任を認めた事例。

弁護士 藤田 大輔